
台湾の研究チームが、オフィスの蛍光灯などの室内照明から効率的に電力を生成できるペロブスカイト太陽電池を開発した。国立陽明交通大学のFang-Chung Chen氏らが発表した次世代型ペロブスカイト太陽電池(PeSCs)は、通常のオフィス照明レベル(2000ルクス)で38.7%という高い電力変換効率を達成している。この技術により、曇りの日や室内環境でも安定した発電が可能になり、IoTデバイスやウェアラブル機器への電力供給に新たな道筋が示された。
従来のシリコン太陽電池は屋外の強い日光を前提に設計されており、室内光での発電効率は低かった。一方、ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造と呼ばれる特殊な結晶構造を持つ材料を用いた次世代太陽電池技術だ。この構造により、薄型・軽量・柔軟性に優れ、半透明にすることも可能で、従来のシリコン太陽電池では実現困難な特性を持つ。今回の研究成果は2025年6月24日にAPL Energy誌で発表され、ペロブスカイト太陽電池による室内光発電の実用化に向けた大きな前進として評価されている。
バンドギャップ調整により室内光に最適化
研究チームは、ペロブスカイト太陽電池の材料であるペロブスカイト層のバンドギャップを調整することで室内光への最適化を実現した。バンドギャップとは、電子がより高いエネルギー準位に移動するのに必要な最小エネルギーを指し、異なるバンドギャップは異なる光の波長を吸収できる。ペロブスカイト太陽電池では、ペロブスカイト層を構成する分子の比率を調整することで、室内光の吸収に最適なバンドギャップを実現した。これはシリコン太陽電池では不可能な調整だ。
Chen氏は「一般的な市販太陽電池はシリコンベースですが、ペロブスカイト太陽電池は薄型、軽量、柔軟性を持ち、半透明にもできます。一方、シリコンパネルは硬く重いため、平坦で耐久性のある表面に限定されます」と説明している。
しかし、ペロブスカイト太陽電池のバンドギャップ調整には副作用として欠陥が生じるという課題があった。研究チームは「キレート剤ベースの欠陥パッシベーション」と呼ばれる手法を開発し、この問題を解決している。この手法はペロブスカイト太陽電池の効率低下を補償するだけでなく、ペロブスカイト層の腐食耐性を向上させ、太陽電池全体の安定性も改善することが判明した。
標準太陽光では12.7%、室内光で38.7%の効率を実現
実験結果では、このペロブスカイト太陽電池が標準太陽光照射条件(約1万2000ルクス)で12.7%の電力変換効率を達成した。これはシリコン太陽電池の最高効率26%と比較すると低いが、2000ルクスの室内光条件では38.7%という印象的な効率を示している。この明るさレベルは一般的なオフィス環境と同程度だ。
Chen氏は「ペロブスカイト太陽電池の室内効率はより高く、曇天の屋外、室内、その他の薄暗い環境を含む多様なユーザーシナリオに適した太陽光発電製品を作ることができます」と述べている。このペロブスカイト太陽電池技術は、リモコン、ウェアラブルデバイス、インターネット接続可能なトラッカーなどの小型デバイスの充電に活用できる。
研究チームは当初、この手法がペロブスカイト太陽電池のデバイス効率を改善することのみを期待していたが、ペロブスカイト太陽電池の信頼性という大きな課題に対しても解決策を提供することになった。「ペロブスカイト太陽電池の信頼性の低さは普及への大きな障害でしたが、我々の提案手法がペロブスカイト太陽パネルの商業化への道筋を切り開くことを願っています」とChen氏は語っている。