子どもの習い事の送り迎えで待つ時間、スマートフォンを延々とスクロールする代わりに、昔遊んだCommodore 64のゲームができたら。retrodad1982と名乗る英国の製作者は、その思いつきをRaspberry Pi 3 Model Bで形にした。3Dプリント用のデータとRaspberry Pi Pico用の自作ファームウェアをGitHubで公開し、誰でも同じものを組み立てられるようにしている。
Commodore 64は1982年発売の8ビットパソコンで、単一機種としては史上最も売れたコンピューターとされる。手持ちの実機は持ち運べる代物ではなく、かといって市販の携帯ゲーム機ではキーボードがないためC64のゲームは操作しづらい。既製品のUNI64「UHELD64」も検討したが、予算に合わず、画面も製作者の目には小さすぎた。
心臓部のRaspberry Pi 3Bは、たまたま手元にあったものを使った。ソフトウェアはPi Lizardが配布するカスタムイメージで、電源を入れるとVICE64エミュレーターが直接立ち上がる。より忠実な再現ができるBMC64も検討したが、50MHzで正しく動作する小型LCDを見つけられず断念した。PAL方式のゲームを遊びたかったためだという。
キーボードには、Xbox 360用の周辺機器であるChatPadを流用した。ただしこれにはファンクションキーも矢印キーもない。そこで足りない分をタクトスイッチで追加した。当初はSolder PartyのKeebDeckを使うつもりだったが、半年にわたって在庫切れが続いていた。ゲーム操作は市販のUSB接続SNESゲームパッドが担う。
面白いのは、9ピンD-sub端子のC64用ジョイスティックポートまで搭載している点だ。この画面サイズには不釣り合いだと本人も認めているが、「できるから付けた」という。1980年代から1990年代にかけて多くのパソコンやゲーム機で使われたこの端子は今では珍しく、Raspberry Piに直接つなぐことはできない。そこでRaspberry Pi Picoを間に挟み、自作ファームウェアで信号を変換している。追加したタクトスイッチもこのPicoが処理する。
部品はすべて市販品で、はんだ付けをせずに組み立てられる。その代わり本体はやや大きい。ケースは3Dプリントしたあと、水研ぎとスプレー塗装を何度か繰り返して仕上げた。スピーカーとアンプモジュールを組み込んでチップチューンを鳴らし、小型HDMIディスプレイとUSBモバイルバッテリーを収めて完成する。
Raspberry PiのArmチップは当然6502ではないため、C64のソフトがそのまま動くわけではない。それでもVICEのおかげで、電源を入れれば見慣れた青い画面と点滅するカーソルが現れる。製作者は今後、小型のHDMI分配器が見つかれば映像出力を追加し、大画面テレビでの2人プレーにも対応させたいとしている。microSDカードを差し替えればRaspberry Pi OSやKali Linuxも動くため、C64風のサイバーデッキとしても使える。