Raspberry Piは2026年9月18日、マイコン「RP2350」から内部の秘密情報が読み出されたとの報告を公表した。仏Ledgerのセキュリティ研究部門Ledger Donjonが、チップに赤外線レーザーを当てて解析用の接続口を開き、128ビットの情報を取り出した。Raspberry Piは、約25万ドル(約3900万円)の設備を要する破壊的な手法だとして、チップの作り直しは不要と判断した。
RP2350は2024年8月に発売したマイコンで、署名を確かめて正規のファームウェアだけを動かす仕組みを備える。書き換えのきかない領域に設定を焼き込めば、開発時に使う解析用の接続口を永久に塞げる。同社は2024年にこの防御を破るコンテストを開催し、そこで見つかった弱点を回路の作り直しで修正した改訂版を出荷している。今回破られたのは、その改訂版だった。
破られたのは、その封鎖に例外が残っていたためである。チップ内には「DEBUGEN」という設定値があり、これを書き換えれば永久封鎖の設定を無効にして接続口を開けられる。同社のデータシートが明記している仕様だ。しかも、焼き込み領域の重要な設定が3組に複製されて多数決で守られるのに対し、DEBUGENにはその備えがない。研究チームはここを狙った。
難しいのは、チップのどこを撃てば値が変わるかを突き止めることだった。半導体の回路は動作するときにごく弱い赤外線を出す。研究チームはDEBUGENの特定の桁だけを切り替えるプログラムを2種類走らせて撮影し、その差から狙う位置を数マイクロメートルまで絞り込んだ。
照射はチップの裏側から進めた。表面は金属配線に覆われて赤外線が通らないため、パッケージを削ってシリコンを露出させる。数マイクロメートル離れた2カ所が反応し、片方で接続が有効になり、もう片方で安全な領域まで踏み込めた。一方を撃つともう一方が戻るため、両方が成立するまで交互に照射した。
書き換えを禁じるロックも効かなかった。DEBUGENには、いったん禁止すればソフトウェアから変更できなくなる仕組みがあるが、レーザーによる変化は防げない。しかもロック側の値までレーザーで書き換わり、一度そうなると戻せないため、ファームウェアから元の状態に復旧する手段も失われる。
研究チームは競技会と同じ設定を再現した装置でこの手順を試し、別の経路からチップを再起動してファームウェアが動き出す前に止め、接続口を開いて秘密情報を読み出した。報告は2026年7月28日にRaspberry Piへ伝えられている。
Raspberry Piは公式ブログで、チップをパッケージから取り出して削る必要があること、機器ごとに別の鍵を使っていれば被害は1台にとどまることを挙げ、作り直すほどではないとした。同社は消費電力などの手がかりから鍵を推測する攻撃を対象にした2回目のコンテストを実施中で、締切の2026年10月末を前にまだ破られていない。