3Dプリントでマルチカラーの絵が描ける─2.5次元の立体絵画を楽しむ「HueForge」入門

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家庭用3Dプリンターでも、マルチカラー印刷がぐっと身近になった。Z軸の高さ調整や、色ごとのモデル準備、造形データの管理といった手間が軽減され、複数色を使った造形物を目にする機会も増えている。筆者もマルチカラー対応3Dプリンターを購入し、日々の出力に彩りが加わったことを実感している。

そんな「3Dプリント×カラー」の楽しさを一段と広げてくれるソフトウェアが「HueForge」だ。最大の特徴は、フィラメントを絵の具のように扱う「Filament Painting」という発想と、素材や色によって異なる透過性を「Transmission Distance(TD)」という独自の数値で管理したこと。TD値に基づき、層の重ね方を調整することで、実際に使う色数よりも多彩なグラデーション表現が可能だ。

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公式サイトに掲載された制作例

例えるなら、これまでのマルチカラー3Dプリントが「限られた色数で描く立体ドット絵」だったとすれば、HueForgeは「水彩絵の具でにじませるような表現」を可能にしてくれるツールだ。フィラメントの色ごとに分かれる単色表現を超え、HueForgeではその中間の色も滑らかに再現できる。この記事では、そんなHueForgeの基本的な使い方と、筆者による作例を紹介していこう。

目次

ソフトウェアの購入とダウンロード

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HueForgeは、アメリカのソフトウェアスタジオ「Horn & Rhode LLC」によって開発・販売されている。2023年に最初のバージョンがリリースされ、2025年7月現在、公式サイトからWindows/macOS/Linux対応のソフトウェアを購入できる。

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ライセンスは買い切り型(Lifetime)と年額制(Billed Yearly)、およびベータ機能へのアクセスやデータ・造形物の商用利用可否によって4タイプに分かれている。筆者は造形物の販売を見込んで「Limited Commercial」の年額ライセンスを選択した(購入時の価格は日本円で8900円、本記事の執筆とは関係なく、自腹で購入している)。

購入手続きはShopifyの決済サービス「Shop Pay」で行われ、決済が完了するとダウンロードリンクが発行される。自分のOSに合わせたバージョンを選び、インストールを進めよう。初回起動時には、設定ファイルなどを保存するフォルダの指定が求められるため、「ドキュメント」など分かりやすい場所を選んでおくと安心だ。

画像を読み込み、フィラメントを割り当てる

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今回使用したのは、macOS版 HueForge v0.9.1.2。ソフトを立ち上げると、ずらりと並ぶツールの多さに戸惑うかもしれないが、まずは画面上部メニューの「Preference > Language > Japanese」から、インターフェースを日本語に切り替えておこう。公式のリリースによれば、日本語訳には国内の有志ユーザーによる貢献があったようだ。

画像データの読み込み

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まずは3Dプリントデータに変換したい画像を読み込む。メインウィンドウ右側の「ここに画像をドロップして読み込み」と書かれたエリアに、画像ファイルをそのままドラッグ&ドロップすればOK。もしくは、上部メニューの「ファイル > ファイルを開く > 画像」から選択して読み込むこともできる。対応ファイル形式はJPG/ PNG/WEBP/SVG と幅広い。

※以降、筆者がHueForgeで利用するイラストや人物写真はAdobe Fireflyによる生成画像を利用している。

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画像を読み込んだ直後
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左側は3Dで表示されており立体形状を確認できる

画像を読み込むと、中央の「カラーコア」と呼ばれるエリアの配色に基づき、画像が奥行きのある立体データに変換される。スライダーの下部が最下層、上部が最上層に残る色となり、この順序に従ってグラデーションが生まれていく。中間色をレイヤーの厚さや別のフィラメントによって制御することで、なめらかな色の変化を演出できるようだ。

使うフィラメントの登録

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絵の具を選ぶようにフィラメントを選ぶ

HueForgeで表現できる色は、3Dプリントの素材であるフィラメントにある程度依存する。熱溶解積層方式(FFF)というプリント方式の特性上、無限のカラーパレットから自由に選ぶことはできず、絵の具やカラーペンを選ぶように、手元にある色から構成を考える感覚に近いと考えよう。

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手元にあるフィラメントを登録した

HueForgeの「フィラメントライブラリ」には、PLA/PETG/ABSといった素材の種類や、Bambu Lab/Polymaker/Prusa/SUNLUなどのメーカーごとに分類された、600種類以上のフィラメントがあらかじめ登録されている。自分が所有している、あるいは今後使用予定のフィラメントにチェックを入れて「Owned」に登録しておくことで、これから作成する3Dデータにその色を反映できる。

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BIQUのTD1S販売ページより引用

さらに、ライブラリに存在しないフィラメントは、自分で新たに登録することも可能だ。

ここで注意したいのが、フィラメント一覧に表示される「0.6」や「2.0」といった数値。これは「TD(Transmission Distance)」と呼ばれる光の透過率を示す指標で、HueForgeにおける色再現性に影響を与える重要なパラメータだ。

TD値はフィラメントの材質や色によって異なるが、HueForge独自の定義であるため、これを公開しているメーカーはほとんど存在しない。そのため、より正確な値を得たい場合には、BIQUの「AJAX TD1S」という専用測定機を使って、自分で計測することが推奨されている。

フィラメントの色を3Dモデルに反映

続いて、フィラメントの色を3Dモデルに割り当てる。「フィラメントライブラリ」から使用したいフィラメントをドラッグし、「カラーコア」のスライダー上にある五角形のマーカーにドロップすると、その位置の色が上書きされる。

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初期状態では4色が設定されているが、新しい色の追加や、「無効」や「ゼロスライダー」を使って色数を減らすこともできる。使用する3Dプリンターの仕様や、色の切り替えにかかる手間を考慮しながら、自分にとって最適な色数を見つけていこう。

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新しいフィラメントの追加
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マーカーを右クリックすると減色などのオプションが現れる

その後は、マーカーの位置を上下に動かしたり、並び順を入れ替えたりしながら、思い描くイメージに近づける。色を重ねる順番や、どのレイヤーを閾値(しきいち)として設定するかなど、HueForgeならではの設計要素は新鮮だ。最初は操作に戸惑うかもしれないが、触っているうちに少しずつコツがつかめるだろう。

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悩ましくも楽しい時間

データの書き出しとスライス設定

3種のファイルの役割を知る

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編集が終わったら、データを3Dプリント用に書き出していく。上部メニューから「ファイル > プロジェクトに名前をつけて保存」を選び、任意の場所に保存すると、以下の3つのファイルが出力される。

hueForge_files
  • ① ◯◯◯.hfp
    HueForge独自のプロジェクトファイル。読み込んだ画像や色の調整情報がすべて保存されている。Adobe Illustratorの .ai や、Arduinoの .ino に相当するファイルで、HueForgeでプロジェクトを再編集する際にも使用する。
  • ② ◯◯◯_describe.txt
    使用するフィラメントの種類や色、何層目でどの色に切り替えるかといった情報が、利用者向けの指示書として文章で記載されたファイル。
  • ③ ◯◯◯.stl
    画像の色階調に応じて高さが付与された、色なしの3Dモデルデータ。
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describetxtの中身

HueForgeによる造形のカギを握るのが、②のdescribe.txt ファイルだ。フィラメントの種類やスワップのタイミング(何層目で色を切り替えるか)といった情報が記載されており、実際のプリント時に色を変えるための「指示書」として活用できる。

任意のスライサーに③のSTLファイルを読み込み、②の指示に従ってスライスデータを作成すれば、①で編集した通りの見た目を再現できるというわけだ。

実践:Bambu Studioでスライス&印刷してみた

それでは、HueForgeで作成したデータをもとに造形してみよう。今回は、Bambu Lab A1 mini(3Dプリンター)とBambu Lab AMS lite(素材供給システム) 、スライスソフトとして Bambu Studio を活用した。

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STLファイルを読み込み、describe.txtの指示に従ってデータを編集する。まず、モデル全体のフィラメントとして、HueForgeで設定した最下層の色を割り当てておく。続いて、レイヤー高さを0.08mm、ベースレイヤー高さを0.16mm、充填率(インフィル)を100%に変更。設定が完了したら「Slice Plate」をクリックして、モデル全体を一度スライスする。

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スライスが完了したら「Preview」タブに切り替え、画面右側の縦長のバーに注目。指定されたレイヤーで右クリックして「Change Filament」を選び、次の色のフィラメントに切り替える。この作業を、最終レイヤーまで行う。

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各色の切り替えを設定後、再度「Slice Plate」を実行すると、HueForgeで設計した色の重なりやグラデーションが反映された、最終的なスライスデータが完成する。あとは、AMSの設定も確認し、プリントをスタートするだけだ。

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出力されたモデルがこちら。フィラメントの特性によるものか、透明感の影響はあまり感じられないものの、色の重なりや切り替えによって奥行きが生まれ、何とも言えない存在感を放っている。画像を紙に印刷するのとはまったく違う、HueForgeならではの「立体で描く」表現の魅力が垣間見えた。

原色、透明、混合色。重ね塗りのバリエーションが楽しい!

ツールの基本的な使い方を理解したところで、さらなるバリエーションにトライしてみよう。

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鳥と同じフィラメント構成を使って、サンタクロースの造形にトライ。ふわふわとした髭の質感や、赤と黒のくっきりしたコントラストがしっかり表現できた。モチーフの特徴に合った色をあらかじめ用意しておくと、よりイメージと近いものになりそうだ。

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似た系統の色を揃えれば、より繊細な表現にも挑戦できる。黄色系のフィラメントを4色用意して食パンを造形すると、焦げ目や焼き加減などの微妙なニュアンスも漂う見た目に。4色とは思えないグラデーションや粒感が生まれ、HueForgeならではの立体感と奥行きのある色彩が際立つ作品に仕上がった。

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こちらは透明度の高いフィラメントを使用し、海面から海底への光のグラデーションや、クラゲの透明感を再現することを目指した作例。レイヤーの重なりによって陰影が生まれ、奥行きがうまく表現されている。HueForge特有のTD値が活きた、複雑なグラデーションが印象的だ。

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最後に、グラデーションや中間色を極力使わず、はっきりと色を分けた造形にも挑戦してみた。立体的な印象が生まれるだけでなく、横から見ると「地層」のような構造が現れるのもユニークなポイント。2Dと3Dの境界を横断する、新たな表現技法としても発展の余地がありそうだ。

色彩表現の新たな次元へ

卓上サイズの3Dプリンターとフィラメントだけで、これほど豊かな色彩表現ができることは、新鮮で驚きのある体験だった。また、HueForgeによる多色造形は決して万能ではないが、だからこそ想像力が刺激されるものでもある。手元の素材から発想を膨らませるのか、それともイメージに合わせてフィラメントを調達するか——まるで画家が絵の具やモチーフを選ぶような体験が楽しめるだろう。

また、通常の多色造形ではフィラメント切り替えごとに廃棄される余剰(purgeやpoopと呼ばれる)が多く発生するが、HueForgeは同一レイヤーでの切り替えを必要としないため、このロスを最小限に抑えられる。結果として出力時間も短縮され、表現の幅と造形の効率性が両立されることも魅力と言えるだろう。

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HueForgeには今回紹介した以外にも、クリエイターの表現を後押しする多彩な機能が揃っている。3Dプリンターとフィラメントを表現のパレットとして使う、そんな可能性に惹かれた方は、是非この魅力的なツールにトライしてみてほしい。

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ライター/編集者。大学で3Dプリンターと出会いものづくりの面白さに目覚め、デジタルファブリケーションの世界へ。卒業後、研究員として2年半ほど従事したのち、ものづくりを中心としたライターとして独立。
2023年には墨田区でファブ施設「京島共同凸工所」の運営をスタート。文章と場づくりを行き来しながら、街での生活を満喫している。工房での日々を綴った自主制作本「京島の十月」が販売中。

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