
ドイツ・ゲッティンゲン大学の研究者が、AI技術を活用して約2000年前の古代文書「死海文書」の断片を分析し、バラバラになった1000個のパズルピースを20グループに整理することに成功した。これまで人間の目では判別が困難だった筆跡の違いをAIが見分け、どの断片が同じ巻物の一部なのかを特定した。
死海文書は、1947年に死海近くの洞窟で羊飼いによって偶然発見された古代の宗教文書群だ。紀元前3世紀から紀元後1世紀にかけて書かれ、最古の旧約聖書の写本を含むことから「20世紀最大の考古学的発見」と呼ばれている。しかし、約2000年の時を経て、多くの巻物は劣化し、切手サイズほどの小さな断片に分かれてしまっていた。
特に問題となっていたのが、11の洞窟のうち4番目に発見された洞窟から見つかった断片だ。この洞窟からは他の洞窟と比べて圧倒的に多い数の断片が発見されたが、あまりに細かく砕けていたため、どの断片がもともと同じ巻物だったのかを特定するのは、ジグソーパズルを絵柄なしで組み立てるような困難な作業だった。
AIが筆跡の微細な違いを見分ける

(画像出典元:EurekAlert / Popović et al., 2025, PLOS One,)
ゲッティンゲン大学のコンピュータ科学者Igo Mattingly氏は、「StyleGAN」という生成AIを使って、断片に書かれた古代ヘブライ語の文字を分析した。人間の筆跡が指紋のように一人ひとり異なるように、古代の書記たちもそれぞれ独自の書き方の癖を持っていた。AIはこの微細な違いを検出し、同じ書記が書いたと思われる断片をグループ化した。
これまでの研究では、研究者たちは断片の内容や羊皮紙の材質、インクの成分などを手がかりに分類を試みていたが、断片があまりに小さく、書かれている文字も数文字程度のものが多かったため、正確な判断は困難だった。
パズルが解けることで見えてくる古代の知恵
この研究の画期的な点は、これまで200以上の異なる巻物から来たと考えられていた約1000個の断片が、実はわずか20の巻物グループに属していたことが判明したことだ。バラバラだと思われていたパズルのピースが、実は同じ絵の一部だったことが分かったようなものだ。
この発見により、断片的にしか読めなかった文章がつながり、古代の人々が何を考え、何を伝えようとしていたのかがより明確になる可能性が高まった。例えば、これまで意味不明だった数文字の断片が、別の断片とつながることで、完全な文章として理解できるようになるかもしれない。
Mattingly氏は、この手法が死海文書以外の古代文書の研究にも応用できると述べている。世界中には、戦争や自然災害、経年劣化などで断片化してしまった貴重な古文書が数多く存在する。AI技術は、これらの失われた知識を再び人類の手に取り戻す鍵となる可能性を秘めている。
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