
FabSceneの読者投稿フォームに、興味深いプロジェクトの投稿が届いた。1958年に発売されたゼンマイ駆動の8mmシネカメラ「Yashica 8」を、現代のデジタル技術を使ってハイビジョン撮影可能なカメラに改造するという、アナログとデジタルを融合させた作品だ。
「airpocket」氏によって開発された「ぜんまい仕掛けのデジタルカメラ Hi-Vision」は、70年以上前に使われていたゼンマイ駆動の8mmシネカメラをデジタルカメラ化するプロジェクトで、ハードソフトの改良を行いハイビジョン化を実現した。
改造されたYashica 8は、1958年に発売されたDouble 8規格のフィルムを用いたシネカメラ。設計はスイス製のBolex C-8を参考に進められていたようで、駆動部などの基本設計はほぼそのまま流用されている。駆動力はぜんまい式で、撮影用とファインダー用の2系統の光学系を持ち、撮影用レンズはターレット式の交換機構が組み込まれている。
デジタル化改造を行うにあたり、カメラ本体のゼンマイ駆動部は残置しつつ、フィルム送り部を取り除いてデジタル撮影モジュールを設置するスペースを確保した。Ver.1ではフィルムマガジン式カメラの改造を行っていたが、Ver.2では当時のカメラ複数台を分解、構造を確認してカメラ本体への改造も可能になった。
アナログの操作感をそのまま残したデジタル化
このプロジェクトで最も重要なのは、改造後も元のカメラと同じ操作性を保持している点だ。シャッター動作はぜんまい駆動で、光学系はオリジナルのまま。フォーカス、露出はマニュアル設定となっており、デジタル撮影ユニットをセットした後は、当時の全く同じ手順での撮影が可能だ。
そのため、フィルムカメラ撮影の難しさや手間、そして撮影の手ごたえや快感はそのままに、デジタルカメラの気楽さで撮影が可能になっている。Ver.1ではシャッター駆動とのシンクロを行っていたが、Ver.2ではシャッター膜を取り外してシャッター駆動とのシンクロをオミットした。この改造方針の変更により撮影機能が向上している。
デジタル化によって、8mmフィルムカメラの特長を残しつつ現代的なメリットも得られる。WiFi接続、もしくはUSB接続を用いたデータ出力が可能で、ストリーミングカメラ機能によりWebカメラとしても使用可能。ネットワークに接続してファイルサーバとして動画ファイルの出力もでき、手軽に動画確認ができる。
Raspberry Pi Zero 2Wで大幅にスペックアップしたVer.2

Ver.2では前バージョンから大幅な性能向上を実現している。コントローラはRaspberry Pi Zero 2W、イメージセンサはIMX219からIMX708にアップグレード。解像度は640×480から1920×1080のフルハイビジョンに向上し、連続撮影時間も6秒から45秒以上に延長された。
特に注目すべきは視野の改善で、Ver.1では31%だった視野がVer.2では110%まで拡大され、オリジナルのフィルムカメラを上回る撮影範囲を実現している。フレームレートも最大64fpsまで対応し、オリジナルカメラと同等の性能を達成した。
撮影ユニットの開発では、カメラのサイズに合わせて筐体を設計し、制御基板、電源、コントローラ用Raspberry Pi Zero 2Wなどを配置した。筐体内レイアウトは試行錯誤しながらパズルを解く感覚で検討し、ユニバーサル基板を用いて初期の開発基板を作成。初期開発基板で動作確認を行った後、PCBにて本番基板を制作、ユニット化した。
技術的には、GPIOを使ってシャッターのタイミングを検知し、IMX708センサーで1920×1080のハイビジョン動画を撮影する仕組みになっている。カメラ制御プログラムはPythonで記述され、OpenCVやPicamera2ライブラリを活用。FlaskによるWebストリーミング機能も実装されている。
プロジェクトの目的についてairpocket氏は、「ゼンマイ駆動式の8mmフィルムカメラによる撮影を手軽に体験し、その価値の再認識をうながし失われつつある8mmフィルムカメラを保護するきっかけにすること」と説明している。改造を行うことで8mmフィルムカメラとしては機能しなくなるため、使用可能なカメラを改造に供することは可能な限り控えてほしいとしている。
現在、市場には付属レンズを失ったカメラボディが多数販売されており、シネカメラ用Dマウントレンズは多くが他市場に流れて、シネカメラとして使用できないボディが入手できる。これらのカメラの多くはレンズ交換式のため、レンズを失ったボディをデジタルカメラに改造し、フィルム撮影可能なカメラからレンズを「借りて」使用することを想定している。
このプロジェクトは、古い技術の魅力を現代に蘇らせる改造の好例だろう。3Dプリント部品や回路データはGitHubで公開されており、同様の改造に挑戦したい人にとって貴重なリソースとなっている。
※この記事は読者投稿フォームからの応募に基づいて作成しました。
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