
チェコの3Dプリンターメーカー、Prusa ResearchのCEOであるJosef Prusa氏は2025年7月10日、同社のブログで「デスクトップ3Dプリンティングのオープンハードウェアは終わった」と表明した。同氏は中国の政府補助金と特許制度が原因で、従来のオープンソース文化が維持できなくなったと指摘している。
Prusa氏によると、2020年頃から中国政府が3Dプリンティングを「戦略産業」として位置づけ、国内企業への補助金支援を強化した結果、市場環境が一変したという。この影響で過去5年間に欧州や米国の多くの3Dプリンターブランドが廃業に追い込まれ、業界の創造性が失われたと述べている。
同氏は中国での特許出願費用が125ドル(約1万8000円)と安価である一方、これを無効化するには1万2000ドル(約178万円)から7万5000ドル(約1110万円)の費用がかかることを問題視している。この費用格差により、オープンソースプロジェクトが特許出願を監視することも、異議申し立てを行うことも現実的ではないとしている。
自社製品も設計非公開に転換
Prusa Researchは「Original i3」など自社製品でオープンソース設計を採用し、コミュニティとの協力を重視してきた。しかし最新モデルのMK4やCore ONEでは、主要な電子設計の公開を制限し、3Dプリント可能なSTLファイルのみを提供する方針に転換している。
同氏は具体例として、2016年に同社がオープンソース化したMMU(Multi Material Unit)マルチプレクサー技術について、中国のAnycubic社が同一設計で特許を取得し、ドイツと米国でも出願していることを挙げている。MMUは複数の異なる材料や色のフィラメントを1台の3Dプリンターで切り替えて使用可能にする技術で、マルチカラー造形を実現する重要な機能となっている。この特許は中国で実用新案として既に認可され、ドイツでも実用新案として認可済みという。
Prusa氏は「R&D費用の200%税額控除」制度により、中国企業が既存技術の微細な変更に対しても大量の特許出願を行っていると分析。欧州特許庁の「Espacenetデータベース」によると、主要4社の中国企業が2019年の40件から2022年の650件へと特許出願を急増させているとしている。
同社では特許監視チームを組織し、先行技術の準備を進めているほか、リスクを最小化した新たなコミュニティライセンスの検討も行っている。Prusa氏は「設計をコミュニティと共有するために、それを保護する必要があるという状況は異常だ」と述べ、3Dプリンティング業界全体での対応を呼びかけている。
同氏は「Made in China 2025」政策の対象となっているオープンハードウェア分野全般で同様の問題が発生する可能性があるとして、他の分野でも特許出願状況の監視が必要だと警告している。