
オートバイでグループ走行する際、ライダー間のコミュニケーション手段は重要だ。市販のインターコムは高価で、特定ブランド間でしか互換性がない場合も多い。そんな課題に対して、GitHubユーザーのcjhudlin氏が開発したのが「VOXCOMM」だ。
このプロジェクトは、ESP32を使用したメッシュネットワーク型インターコムシステムである。特徴的なのは、ESP-NOWやZigbee、ESP-MESHといった既存のプロトコルを使わず、音声通信に特化した独自のメッシュプロトコル「VOX MESH」を開発した点だ。
メッシュネットワークとは、各デバイス(ノード)が中央のルーターに依存せず互いに直接通信する方式だ。各VOXCOMMデバイスは他のデバイスへ情報を中継でき、複数の通信経路を作り出す。1台のデバイスがオフラインになっても、データは自動的に別の経路を見つけてネットワークを維持する。この自己修復機能により、移動中のグループ通信に適した堅牢性を実現している。
システムの仕様は以下の通りだ。Bluetooth音声は44.1kHz/16ビットステレオ再生に対応し、メッシュ音声通信は14.7kHz/16ビットステレオで動作する。OLEDディスプレイを搭載し、ディスプレイが見えない場合(ヘルメット装着時など)には音声アシスタントがモードを通知する。
製品は2つの形態で提供予定だ。Variant Aはオートバイヘルメット用マウント付きで、パッドを介してマイクとスピーカーに接続する。Variant Bはヘッドセット接続用で、3.5mmジャックを使用してマイクとヘッドセットに接続する。両バリアントのファームウェアは同一で、ハードウェアのみが異なる。
独自プロトコルを採用した理由について、cjhudlin氏はRedditのコメントで説明している。SenaやCardoといった商用インターコムはZigbeeを使用し、そのプロトコルはプロプライエタリ(独占的)だ。許可なく使用すれば法的問題が生じる可能性があり、またESP32のハードウェア層にはZigbeeプロトコルがない。一方、VOX MESHはWiFiモジュールを持つほぼ全てのデバイスで動作可能な設計となっている。
この独自アプローチにより、従来システムに対していくつかの利点を主張している。より高いスループットと低遅延、長距離通信、接続数に固定制限がない可能性などだ。ユーザーは独自の名前とパスワードでプライベートグループを作成でき、近くの誰でも参加できるオープンメッシュモードも用意されている。
ただし、開発中のため制約もある。現在、BluetoothとMESHは同時に動作できず、VOXモード時にはBluetoothが無効になる。HFP(Hands-Free Profile、ハンズフリープロファイル)は開発中で、ハードウェアとファームウェアの最適化も進行中だ。
開発状況としては、2025年10月31日時点でコアのMESHとBluetooth機能は動作しており、音声最適化と安定性向上が進行中だ。PCBは製造され、テスト中で、プロトタイプ筐体も製作されている。複数デバイスでのテストと通信距離のベンチマークも進行中だ。
通信距離については、cjhudlin氏はコメントで「300メートルから500メートル以上を期待している」と述べているが、まだ十分にテストされていない。メッシュネットワークの特性上、ノード数が増えれば中継により通信範囲が拡大する可能性がある。
コメント欄では、オートバイ通信以外の用途への関心も寄せられている。ホームインターコムシステム、ベビーモニター、乗馬やツアーガイドなど、様々な応用が提案されている。音声通信にステレオを使用していることについて、帯域幅を半減できるモノラルにすべきという指摘もあった。
cjhudlin氏は、少なくともPCBについては収益化を計画していると述べている。PCBの製造と組み立てにはコストがかかり、過去4カ月の大部分をこのプロジェクトに費やしてきたためだ。プロジェクトはGitHubで公開されており、PCB設計、筐体設計、資金提供などの貢献を歓迎している。
V1.0のファームウェアは間もなくリリース予定だが、制限があり、全てのテストが完了していないことが明記されている。ハードウェアの詳細情報は今後公開される予定だ。独自メッシュプロトコルの開発は野心的な試みだが、実用化にはまだ検証が必要な段階だろう。

