
ロボットに目がつくだけで、まるで命が宿ったように感じられることがあります。じっと見つめたり、きょろきょろと視線を動かしたり、わずかな仕草が不思議と感情を想像させ、単なる機械が個性を持つキャラクターへと変化します。
そんな「視線の力」を小さなロボットにも簡単に取り入れられるように、手のひらサイズの目玉モジュールを作ってみました。ものづくりを学ぶうえで大切なのは、技術だけでなく「心を動かす仕掛け」も体験することです。この目玉モジュールづくりを通して、センサーやモーターを活用しながら、ロボットが「見る」「感じる」ように見せる仕組みを探っていきましょう。

視線の重要性
ロボットの視線は、動作の中でも特に生命感を左右する重要な要素です。どんなに精巧な機構や美しい造形を備えていても、視線が合わなければキャラクターは生きているようには見えません。逆に、ほんのわずかな目の動きだけで「考えている」「気づいた」「驚いた」といった感情を自然に伝えることができます。
例えば、ディズニーはこの視線の演出に早くから注目しており、ディズニーランドのアトラクション内に登場するキャラクターたちは、目を動かしながら会話したり、観客の方をちらりと見るように設計されています。さらに、視線の動きに合わせて首や眉が連動することで、まるで本当にそこに人がいるかのような錯覚を生み出しています。
この視線の魔法をもっと手軽に体験してほしい。そんな思いから、私は人の動きに合わせて視線が動くロボットを製作し、Maker Faireで展示しました。来場者の多くがロボットに親しみを感じ、子どもたちは思わず手を振ってくれました。その反応を見て、改めて視線の持つ力を実感しました。
目玉モジュールの魅力
ロボットに「目」を与える方法はいくつかありますが、ここで紹介するのは、物理的に動く目玉モジュールです。サーボモーターを使い、実際に目玉を上下左右に動かすことで、まるで生き物のような視線表現ができます。

目玉モジュールの特徴は、サイズによって印象や性質が大きく変わることです。
たとえば、直径5〜6cmほどの大きな目玉は構造がシンプルで、部品も扱いやすく、初めての製作に最適です。サーボモーターやリンク機構を取り付けるスペースが十分に確保できるため、組み立てや調整も容易です。
一方、小さな目玉(直径2〜3cm以下)は、よりリアルな動物やキャラクターの表情を再現できます。小型化するほど自然で繊細な印象になりますが、その分だけ構造の工夫や精密な組み立てが求められます。軽量化や微細なリンク設計など、上級者向けの挑戦的な工作になるでしょう。
つまり、大きい目玉ほど作りやすくデフォルメ的に、小さい目玉ほど難しいけれどリアルに近づくという特徴があります。用途や表現したいキャラクターに合わせて、最適なサイズを選ぶことが大切です。

近年では、ディスプレイにアニメーションで「目」を表示するタイプのロボットも増えています。確かに、液晶を用いれば、まばたきや瞳孔の動きなどを自由にデザインできます。

しかし、物理的に動く目には、ディスプレイにはない独自の魅力があります。実際の光を反射する眼球の丸み、動くことで生まれる慣性やわずかな揺れ、見る角度によって変化する立体的な表情。これらは物理的な構造でしか生み出せません。特に近距離で見ると、その存在感の差は顕著です。

さらに、電源を切っても目がそこにあるという点も大きな利点です。ディスプレイの目は電源を落とすと真っ黒な画面になりますが、物理的な目玉は電源がなくてもキャラクター性を保ちます。静止していても「見ている」ように感じられるのは、まさに造形そのものが持つ力です。

小さな目玉モジュールは、電子工作・機構設計・デザインの要素が詰まった良いものづくり教材でもあります。サイズを変えれば用途も表現も変わる。液晶とは異なるリアルな魅力が、手のひらの中で感じられます。
ハードウェア構成
この目玉モジュールは、小型サーボモーター3個と眼球、そして複数の関節部品で構成されています。これにより、上下・左右の動きに加えて、まばたきも再現できます。モジュール全体は手のひらに収まるコンパクトなサイズで、さまざまなロボットに容易に組み込むことができます。

主要な部品はすべて3Dプリンタで製作しており、樹脂の色や質感を変えることで、さまざまなデザインに対応できます。試作段階ではPLAを使用しましたが、耐久性を重視する場合はPETGなどの素材もおすすめです。
目の部分は、透明レジンで自作することもできますし、手軽に試したい場合はAmazonなどで販売されているドール用の目を利用するのも効果的です。サイズや虹彩のデザインが豊富に揃っているため、キャラクターの印象づくりにも大いに役立ちます。
さらに、モジュールをよりシンプルに扱えるよう、専用基板も製作しました。設計はEasyEDA、製造はJLCPCBを利用しました。コストは部品含め1枚あたり700円程度で、市販のマイコンボードよりも安価に仕上がりました。
専用基板はサーボモーター3軸の制御に加えて、赤外線センサーも搭載しています。もちろん、基板を用いずにArduinoやRaspberry Piからの直接制御も可能です。

ソフトウェア構成
この目玉モジュールのソフトウェアは、3つのサーボモーターを制御するだけのシンプルな構成ですが、少しの工夫で十分に表情豊かに見せることができます。
まばたきの動作にはランダム関数を用い、周期に変化をつけています。一定間隔でまばたきを行うと機械的な印象になってしまうため、1〜10秒の範囲でランダムに間隔を設定し、生きている感を演出します。さらに、時々意図的に長めに目を閉じるなど、わずかな変化を加えることでより自然な表現が可能です。
void loop() {
int delayTime = random(1000, 10000); // 1〜10秒のランダム時間
blinkEye(); // まばたき
delay(delayTime); // 次のまばたきまで待機
}
また、赤外線信号と連動させることで、外部からの刺激に反応するようにも設計しました。赤外線リモコンを使えば「合図に反応して目を動かす」といったインタラクティブな動作を実現できます。

プログラム全体はランダム関数やサーボモーター制御など、初心者でも十分取り組みやすい設計になっています。動作パターンを追加したり、表情を変えるアルゴリズムを組み込んだりすることで、より豊かなキャラクター性を持たせることができます。ソフトウェアの工夫次第でロボットの個性を際立たせることができる。それがこの目玉モジュールの面白さです。
応用アイデア
この目玉モジュールは、単体でも動作しますが、工夫次第でさまざまなロボットに組み込むことができます。ここでは、実例をもとに、応用のヒントとなるアイデアをいくつか紹介します。
ネコ型ロボット
目玉モジュールは、動物をモチーフにしたロボットにぴったりです。頭部に組み込むことで、まるで本物のように見つめてくれる印象を与えられます。
単眼ロボット
あえて単眼にすることで、独特の存在感を生み出すこともできます。単眼デザインは構造がシンプルになるだけでなく、空想の世界を想起させるような、キャラクター性の幅がぐっと広がる点も魅力です。
目は口ほどに物を言う
小さな目玉モジュールは、単純な仕組みながらもロボットの印象を大きく変えてくれます。視線が動くだけで「生きている」ように感じられ、まばたきひとつで親しみやすさやキャラクター性が加わります。無表情だった機械が、ほんの少しの動きで感情を持っているかのように見えてくるのです。

「目は口ほどに物を言う」という言葉の通り、視線はロボットの表現力を豊かにする重要な要素です。言葉を発さなくても、視線の向きや動きの速さで、「興味がある」「驚いた」「考えている」といった心の動きを伝えることができます。
この伝わる仕草こそが、ロボットをただの機械からキャラクターへと変える境界線です。小さなモジュールでも、そこに「見ている」「感じている」ような視線が加わるだけで、作品全体の完成度と印象がぐっと深まります。
これからロボットに命を吹き込みたいと考えている方は、まずはこの小さな目玉モジュールから取り入れてみてはいかがでしょうか。ハードウェアもソフトウェアも、学びながらすぐに実践できる要素が詰まっています。きっと、自分の作ったロボットがこちらを見返してくる瞬間に、ものづくりの新しい魅力を感じるはずです。

