垂直離着陸と高速飛行を両立、米Andurilが6年越しで「テールシッター機」の量産化に成功

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国の防衛技術企業Anduril Industriesは2025年11月13日、ヘリコプターのように垂直離着陸でき、飛行機のように高速で長距離を飛行できるドローン「Omen」の量産契約を獲得したと発表した。アラブ首長国連邦(UAE)の防衛大手EDGE Groupと合弁会社を設立し、UAEから50機の初期受注を得た。

このタイプのドローンは航空宇宙業界が数十年にわたり開発を試みてきたが、技術的な課題から実用化できなかった。Andurilは6年間の開発と5回の全面的な設計変更を経て、推進システムの革新により実用化に成功した。機体を垂直に立てた状態で離着陸する「テールシッター」構造を採用したドローンとしては、世界初の量産契約となる。

テールシッター型機体は、ヘリコプターのように垂直離着陸できる自由度と、固定翼機のような高い飛行性能を併せ持つ理想的な航空機として、航空宇宙企業が数十年にわたり開発を試みてきた。しかし、推進システム、制御システム、複合材料、製造可能性の各分野におけるブレークスルーを同時に達成する必要があったため、実用化は困難とされてきた。

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初期の試作機 画像出典元:@anduriltech

6年間の開発を経て実用化へ

Andurilは2019年にOmenプロジェクトを開始した。当初は同社の小型無人機「Ghost」2機の機体を逆向きに融合させた形状で試作したが、飛行性能は十分ではなかった。その後、形状の進化と内部構造の変更を繰り返し、5回の全面的な再設計を経て、2020年に初飛行に成功した。

開発過程では特に推進系の課題が大きく、2022年には必要な出力と効率を得られずに開発が停滞した。小型エンジンの振動問題も深刻で、離陸時に出力を上げると振動が悪化し、振動を抑制するシステムを追加すると機体が重くなるという悪循環に陥った。

この技術的な壁を突破したのが、電動垂直離着陸機を開発するArcher Aviationのハイブリッド電動パワートレインだった。Andurilは3年間にわたり推進、出力、制御の課題に取り組み、ハイブリッド推進システムのハードウェアとソフトウェア、電動垂直離着陸機用バッテリー技術の内部的なブレークスルーにより、性能の限界を突破した。30機以上のプロトタイプで数百時間の飛行試験を重ねた結果、実用化の目処が立った。

高いペイロード能力と運用の柔軟性

Omenは、最大離陸重量55~600kgの「グループ3」に分類される無人航空機で、全高約3m(10フィート)。垂直に立った状態から垂直離陸し、空中で水平飛行に移行する。滑空機スタイルの翼とツインブームプロペラを備え、滑走路を必要としない運用が可能だ。

ペイロード能力は従来のグループ3無人機の3~5倍で、モジュラー設計により2人のチームで組み立てと展開が可能。機体は組み立て時の半分以下のサイズに折りたため、海上監視、物資輸送、国境警備、通信中継などの任務に対応する。

Andurilは2025年11月17日、Archer Aviationが同社の電動垂直離着陸機「Midnight」用に開発したハイブリッドパワートレインをOmenに供給する契約を締結したことも明らかにした。これはArcher Aviationが自社技術を第三者にライセンスする初の事例となる。パワートレインにはバッテリーパック、モーター、ローターシステムが含まれる。

合弁会社「EDGE-Anduril Production Alliance」は、UAEのアブダビに製造・保守拠点と5万平方フィート(約4600平方m)の研究開発センターを設立する。EDGE Groupは2億ドル(約280億円)を投資し、Andurilはこれまでにグループ3 VTOLの開発に8億5000万ドル(約1190億円)を投じている。UAEはすでに50機のOmenを発注しており、地域顧客向けの機体はUAEで製造、米国向けの注文はAndurilのオハイオ州Arsenal-1施設で対応する。両社は2028年末までの量産開始を目指している。

関連情報

Anduril Industries公式発表

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