個人のひらめきを世界に届けよう――0/1 Club第0回キックオフイベントレポート

FabScene(ファブシーン)

ビット・トレード・ワン、きびだんご、FabSceneの3社が共同で立ち上げた新たな取り組み「0/1 Club」のキックオフイベントが、2025年1月28日に開催された。会場には多くのMakerやものづくりに関心を持つ人々が集まり、5名のMakerによる製品ピッチと活発な交流が繰り広げられた。

3社が掲げる「個人のひらめきを世界に届ける」ビジョン

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イベント冒頭では3社の代表が登壇し、それぞれの立場から0/1 Clubへの思いを語った。

ビット・トレード・ワンの阿部行成氏(代表取締役)は、個人のものづくり系クリエイターが直面する課題を指摘した。同人ハードウェアは品切れが続出し、生産が軌道に乗ると在庫管理やサポート対応に追われる。

一方でスタートアップ支援を受けようとすると事業計画書作成から始まり、本来のものづくりから遠ざかってしまう。こうした課題を解決するため、同社では「BTOマイプロダクトサービス」でクリエイターとの共同開発、製造・流通・販売・サポートを一手に引き受け、販売量に応じてロイヤルティを還元する仕組みを構築。現在30人以上のクリエイターと約80製品を展開している。

FabSceneの越智岳人(編集長/ファウンダー)は、過去に携わったメディアでInstaChordのプロジェクトを取材した際、代表取締役の永田雄一氏がエンジニアや製造委託先を見つけた経緯について言及。

メディアは情報発信だけでなく、こうした価値を残すことができるとし、0/1 Clubのプロジェクトをドキュメンタリーに近い形で記事化していく方針を示した。

きびだんごの松崎良太氏(代表取締役)は、クラウドファンディングの原点回帰を訴えた。「作り手と消費者の間に壁がなく、みんなが仲間になって新しいものを作る感覚こそが本質」と強調。自身が544件のプロジェクトを支援してきた経験から、最近の予約販売サイト化している現状に一石を投じた。

「自分の思いをさらけ出してそこにみんなが参加してお祭りになる場所を作りたい」という思いから0/1 Clubに参加したという。

5名のMakerが語る、それぞれの挑戦

イベント後半では、5名のMakerによる製品ピッチが行われた。今回登壇したのは、0/1 Clubへの参加に関係なく、それぞれがユニークな作品を開発しているMakerたちだ。

登壇者には「完成度ではなく、なぜ作ろうとしているのかという視点で聞いてほしい」と呼びかけられた。まだ完成していない、これから形になっていくプロダクトばかりだからこそ、製作の動機や背景にある課題、そこに込められた思いに耳を傾けることが重要だという。

むらさき氏―― IoTかぎ針

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FabSceneでライターとしても活躍するむらさき氏は、編み物ブームの中で感じた課題を解決する「未来のかぎ針」を発表した。編み図を見ながら編むのは大変で、どこまで編んだか分からなくなることも多い。そこで編み図データを読み込ませると次に編むべき色がLEDで光り、1目編むごとにボタンを押すと次の色に進む仕組みを開発した。Wi-Fiでデータ送信し、小さなディスプレイで進捗確認や途中保存も可能だ。

webで公開後、製品化の要望やクラウドファンディング実施など期待の声が寄せられた。現在は電池駆動化、専用Webアプリの開発、付け替え可能な針先の設計など、より多くの人に使ってもらえるテスト版を開発中だ。会場からは「小学生に使わせたら面白いアイデアが出るのでは」といった意見が出された。

necobit/カワヅ氏―― 物理ステップシーケンサー

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音楽を主体とした電子工作で活動するnecobitのカワヅ氏は、リズムマシンをデジタルではなく物理的に実装した「物理ステップシーケンサー」を披露した。ライトがついている場所の物体が動き、その動きで音が鳴る仕組みで、機械ならではの微妙な揺らぎがデジタルでは出せないグルーヴ感を実現する。2023年のMaker Faire Shenzhen 2023でBest Exhibitorを受賞したが、製品化には壁がある。

基板が大きく部品点数が多いため原価が高く、M5Stack使用により売価が3万から4万円になってしまう。加えてケースの量産問題、コンテンツ化の必要性、音楽をやる人へのリーチ方法など課題は山積だ。

会場からは具体的なアドバイスが飛び交った。ビット・トレード・ワンの阿部氏は「メンブレンスイッチへの変更で単価を下げられる」、越智は「特定のアーティストと舞台装置として共同制作し、POCから始めては」、松崎氏は「DJのおかず、特に配信DJ向けに絞り込んでは」と提案。最終的には「ミュージシャン向けよりDJ向けに特化する」という方向性が見えてきた。

電気女子/浜田紗綾子氏―― Scratchが動くゲーム機「Scratch Act」

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株式会社チェリーチェーン代表取締役の浜田氏は、教育用プログラミング環境Scratchで作ったゲームを専用ゲーム機で動かせる「Scratch Act」を発表した。GIGAスクール構想で配られた端末の半数がScratchを使用しているが、PCでしか動かせないため、おばあちゃんや幼い兄弟に遊んでもらうのが難しい。

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GPU搭載SoCに8GBのメモリを搭載し、5インチ液晶とコントローラーを備えたゲーム機を開発。Scratchの作品ファイルをLinuxアプリケーション化し、SDカードに入れて起動する仕組みだ。AIブームでGPU搭載SoCが増え単価が下がった今だからこそ実現できるプロジェクトだという。山梨県でICT教育に尽力してきた浜田氏は、2026年5月のクラウドファンディング開始を目指している。

吉田紹一氏(BTS Tech)―― HDMIケーブルチェッカー

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BTS Tech代表の吉田紹一氏は、「HDMIケーブルチェッカー」の開発に挑戦している。HDMI2.1規格では最大48Gbitpsの伝送が可能だが、実際には4系統に分割されるため1系統あたり12Gbitps、つまり6から8GHzの高周波信号が流れる。この領域は一般的なオシロスコープでは観測できず、専用測定器は200万円を超える。

ケーブルの長さや端子形状、メーカーによって特性が大きく異なる。ChatGPTに相談したところ「完全に測る方法はない」と即答されたが、アイパターンという評価指標を使いFPGAを活用することで開放率を測定できる可能性を見出した。現状ではHDMI2.0(6Gbitps)までは測定できたが、本来の目標である2.1(12Gbitps)には技術的ハードルが高く、達成確率は「20%くらい」と正直に語った。会場からは「配信業界での距離問題を簡易チェックできるだけでも需要がある」との意見が出され、新たな用途の可能性が見えてきた。

菅原祥平氏―― 動くスマートベッド「Zerovity」

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元ダイソンのデザインエンジニアという異色の経歴を持つ菅原氏は、「寝具に合わせて人が選ぶのではなく、寝具が人に合わせてくる」というコンセプトの動くスマートベッド「Zerovity」を披露した。表面に圧力センサーマップを配置してリアルタイムで計測し、表面の凹凸を変えることで圧力分布を調整。さらに反発力も変えられる。

デパートでマットレスを選ぶ際、普段着で違う枕で試すという不完全な状態で高価な買い物をしなければならない現状に疑問を感じ開発に着手。自宅での快適な設定を記録し旅先でも再現できる可能性や、医療介護分野での床ずれ予防、長距離フライトのファーストクラスへの応用など、幅広い展開を視野に入れている。

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開発は全て自己資金で進め、家族のサポートも受けながらプロトタイプを完成させた。直近の発表会では最優秀賞を獲得したが、フルサイズでの実証実験には資金面での課題が残る。会場では実際に硬さが変わる様子を体験でき、松崎氏からは「睡眠と枕には人類が永遠に追い求める需要がある」とのコメントがあった。

次回は4/22開催予定

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イベント終了後は、各Makerのプロトタイプを自由に触れるハンズオンタイムが設けられ、オーディエンスとMakerが積極的に交流する場となった。IoTかぎ針の色が変わる様子を確認したり、物理ステップシーケンサーの動きを間近で見たり、スマートベッドの硬さ変化を体感したりと、会場は熱気に包まれた。

クロージングでは3社それぞれから今後への決意が語られた。越智は「レベルが高いプロジェクトばかりで0回にふさわしい内容だった。これから継続してどんどん積み重ねていきたい」、阿部氏は「それぞれのステージで悩みを持つMakerを3社で支援していきたい」、松崎氏は「何回まで続けられるか分からないが、100回を目標に頑張りたい」と述べた。

今回を「第0回」としたのは、まだ手探りの段階であることを示すとともに、「のちのち自慢できるような取り組みに発展させたい」という思いが込められている。次回は2026年4月22日の開催を予定しており、続報があれば随時お知らせする予定だ。

※0/1 Clubでは自分の「作品」を「製品」として、世に出したいMakerを随時募集しています。
ご興味のある方はFabSceneのお問い合わせフォームからご連絡ください。

お送り頂いた個人情報及びお問い合わせ内容はプライバシーポリシーに準じて管理し、必要に応じてビット・トレード・ワン、きびだんごの2社に開示しますので、あらかじめご了承ください。

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