
切削工具や金型に使われる超硬合金は、産業界で最も硬い材料の一つだ。しかし、その硬さゆえに加工が困難で、複雑な形状の製造には限界があった。広島大学の研究チームは、超硬合金を硬度を維持したまま3Dプリントする新しい手法を開発した。
広島大学大学院先進理工系科学研究科の丸本啓太助教らの研究グループは2026年2月6日、炭化タングステン・コバルト(WC-Co)系超硬合金を積層造形(AM)技術で製造する手法を発表した。研究成果は学術誌「International Journal of Refractory Metals and Hard Materials」に掲載された。
完全溶融ではなく軟化による成形
従来の積層造形では、材料を完全に溶融させて層を重ねる。しかし、この方法では超硬合金の結晶粒が成長し、硬度が低下してしまう問題があった。研究チームが採用したのは、ホットワイヤーレーザー照射法だ。この手法は、材料を完全に溶融させるのではなく、軟化させることで成形する。
「材料を完全に溶融させるのではなく軟化させることで金属材料を成形するアプローチは新しく、今回の研究対象である超硬合金だけでなく、他の材料にも適用できる可能性がある」と丸本助教は述べている。
超硬合金は炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)の複合材料だ。炭化タングステンの融点は約2870度、コバルトの融点は約1495度と大きく異なる。研究チームは、コバルトの融点以上で炭化タングステンの結晶粒成長温度以下という狭い温度範囲を維持することで、硬度を損なわない成形を実現した。
ニッケル合金中間層で欠陥を防止
研究過程では複数の課題が明らかになった。ロッド先行法では造形物の上部で炭化タングステンが分解し、欠陥が生じた。レーザー先行法でも必要な硬度を維持できなかった。
解決策として、ニッケル合金ベースの中間層を追加した。この中間層と温度管理の組み合わせにより、欠陥のない超硬合金の積層造形に成功した。製造された超硬合金はビッカース硬度1300HV以上を達成し、これはサファイアやダイヤモンドに次ぐ産業界最高レベルの硬度だ。
研究チームの次の目標は、亀裂の問題への対処と、より複雑な形状の成形だ。将来的には、切削工具の製造、他の材料への応用、耐久性向上の研究を進める予定だ。
関連情報
Researchers find a way to 3D print one of industry’s hardest engineering materials(広島大学)
論文情報(International Journal of Refractory Metals and Hard Materials)

