1人で1万個量産、290円のマイコンボード「UIAPduino」ーー目指す先は100均の棚

FabScene(ファブシーン)

「UIAPduino」は290円(税込)のArduino互換マイコンボードだ。RISC-Vアーキテクチャを採用したCH32V003を搭載し、USBケーブル1本で開発を始められる。

開発、製造委託、全数検査、梱包、出荷まで、すべてを手がけるのは埋田祐希(うめた ゆうき)氏、ただ1人。

自宅の机の上で1万個を検査し、3Dプリンターで作った治具で品質を担保する。「三度の飯より開発が好き」を価格で表現したら、すき家の定食と同じ290円になった。

だが埋田氏の目標は、このボードで利益を得ることではない。製造工程のすべてをオープンソース化し、世界中の誰もがクローンできる状態にすること。その先に見据えるのは「100均の棚に並んでいるマイコンボード」だ。

目次

原価を知っているから、買えなくなった

埋田氏の本職はEMC(電磁両立性)のエキスパートだ。電子機器が法規制の範囲内で電波を出し、自他ともにデバイス間で悪影響がないように設計する分野で、ハードウェア設計の「最終到達点」とも言える領域にいた。2025年8月に輸送機メーカーを退職し、3年間の期限を区切って自主的な修業期間に入った。収入はなくとも生活できる資金を確保した上で、作りたいものを作る期間だ。

UIAPduinoが生まれたきっかけは、自分の車のアイドリングストップ機能にあった。エンジンをかけるたびにオフにするボタンを押さなければならない。それを解決するデバイスが欲しかったが、既存のマイコンボードは高すぎた。

「本職がEMCなので、ハードウェア設計は一通り全部できます。部品の原価も知っている。それなのに、1個1000円、2000円、純正品なら5000円もする。元の原価を知っていると、これを10倍で売っているのかと感じてしまって、どうしても買えなくなってしまいました」

元同僚に教えてもらったのがCH32V003だった。安価に入手できるRISC-Vマイコンで、汎用性もある。ただし使い勝手のよい開発環境がなかった。USBケーブル1本で開発できるボードを、自分で作った。

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UIAPduinoの開発にはUSBケーブル1本あればよい。別途デバッガやシリアル変換器は不要。

量産に踏み切った動機には、もう一つの理由がある。今までの職歴では試作開発や少量生産が中心で、量産の経験がなかった。「量産をやっている年配のエンジニアに『量産のことが分かっていない』と言われたら、その通りですと言うしかなかった」。量産工程を自分の手で設計し、理解したい。その渇望から、販売先が決まる前に最初の10枚、続く1000枚の製造に着手していた。

「売る」決断は後から来た。もう一人の共同設立メンバーの榑林氏から販売の提案があり、埋田氏が賛同した形だ。「量産した」より「量産して売った」ほうが実績として強い。その判断がUIAPduinoを製品として世に出すことにつながった。

UIAPという名前は「Umeta & Ikki Automotive Parts」の略だ。榑林氏とともに、車の不便な部分を快適にするプロジェクトとして始まった。ただし現在は榑林氏が本業で多忙なこともあり、UIAPduinoの開発・製造・販売は埋田氏の個人プレーだ。コミュニティベースで動いており、時給制のアルバイトやコントリビューターのメンバーがタスクを手伝うこともあるが、メンバーの意見を取り入れつつも、基盤となる意思決定と実務はほぼすべて埋田氏が担っている。

すき家の定食と同じ値段にした理由

UIAPduinoは当初、1980円で販売していた。

「正直、売上原価に対して丸が二つ多い。ぼったくりだろうと自分でも思っていました」と埋田氏は振り返る。高めの価格を設定した理由は二つあった。一つは、このボードに2000円の価値を感じる人がいるかどうかのリサーチ。もう一つは、ユーザー数を急に増やしたくなかったからだ。

「売る以上は製造責任があります。『これはどう使うのか』『あれはどうなっているのか』という問い合わせが一気に増えると対応しきれません。最初のロットは、コアな人が面白そうだなと思って買ってくれて、使ったレポートを出してくれる。そういう体制にしたかったんです」

1年ほどの検証期間を経て、フィードバックをもとにドキュメントを拡充。サポート体制が整ったと判断した段階で、290円に改定した。

290円という数字には由来がある。すき家の「まぜのっけ定食(ごはんミニ)」の税込価格だ。「三度の飯より開発が好き」ということわざに「開発」を当てはめて、食事1回分の価格にした。埋田氏はインタビュー当日も、朝8時にすき家で290円の朝食を済ませてきたという。

290円でもビジネスモデルは成立する。フィーの徹底的な排除が、コスト構造を支えている。

一部マイコンのCPUアーキテクチャは、チップ価格の数割がライセンス料とされる。RISC-Vを採用したCH32V003には、そのライセンス料がかからない。USB通信はハードウェアペリフェラルではなくソフトウェアで実装しているため、USBベンダーIDの登録費用(初期費用で100万円程度)も不要だ。オープンソースに寄贈されたベンダーIDを使っている。信号のレベル変換も専用ICを使わず、ディスクリート部品で構成した。専用ICと比較して約100円の差が出る。

配送コストも極限まで抑えた。ボードを小さく薄く軽く設計した結果、クリックポスト(日本郵便の185円の宅配サービス)1便で300個を送れる。1個あたりの配送単価は1円を切っている。

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小さく薄い設計がクリックポスト1便で約300個発送できる配送効率につながっている。

「安すぎないか」という声は多い。「プロジェクトの継続性を心配してくれる人もいる。だから『大丈夫です』と、内訳をお話しすることもある」と埋田氏は語る。

3Dプリンターの治具と数個の部品で1万個を検品する

基板の製造と部品実装はJLCPCBに委託している。1ロット1万個。届いた基板の全数検査は、埋田氏が自宅の机の上で手がける。

検査に使う治具は、3Dプリンターで造形した部品と数個の抵抗で構成されている。「この袋に入っているものだけで完結しています」と埋田氏は言う。大がかりな設備投資は必要ない。ブートローダの書き込みは1ボードにつき必ず1回必要なプロセスなので、全数検査にしてもコストはほとんど増えない。

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UIAPduinoの検査治具。3Dプリンターで造形した部品と数個の抵抗で構成されている。

全数検査には、もう一つの理由がある。検査済みボードのチップIDをすべて記録しているのだ。

「10年後、20年後にこのボードが世界中で売られている世界を信じています。そうなったとき、他社が作ったもので火事が起きて、それを私の製造責任になすりつけられるリスクが当然あります。全IDを記録しておけば、私が製造したものかどうかを証明できますから」

ソフトウェア面で最も時間がかかったのは、ブートローダの最適化だ。CH32V003のブートROMは1920バイトしかない。ベースとなる実装は、埋田氏の友人であるアメリカ人エンジニアのCNLohr氏が手がけたものだが、機能を追加すると容量を超過してしまう。

「ビルド後のバイナリを逆アセンブルして、アドレスを見ながらどこのジャンプ命令が共通化できるか、このリターン命令はカットしても大丈夫かという作業を、コミュニティのメンバーと一緒にやりました。2バイト、5バイト、10バイトと削っていく感じです」

CNLohr氏のコミュニティとのオンラインでのペアコーディングだ。埋田氏は「英語は全然分からないです」と言うが、コードを介したコミュニケーションで開発を進めた。ハードウェアの設計自体は「3日あればできる」レベルだが、ソフトウェアの最適化には数カ月を要した。

設計図の公開だけでは、誰もコピーできない

UIAPduinoの回路図とボードデザインはオープンソースで公開されている。だが埋田氏は、それだけでは不十分だと考えている。

「既存のオープンソースハードウェアは、設計データを公開して『これでオープンになった、誰でもコピーできる』としています。それは大間違いだと思っています」

埋田氏が目指すのは「オープンソースマニュファクチャリング」だ。回路図やガーバーデータだけでなく、製造に使う治具の設計、ブートローダの書き込み手順、検査工程、そして製造中の人間の動作そのものまで、すべてを公開する。

「自分がこの机で黙々と1時間作業している様子をそのまま動画で撮っています。こんな簡単にできるんだよと知ってもらうためです。一部の方には限定公開で既にお見せしています」

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検査前のUIAPduino(写真下)。1ロット1万個がJLCPCBから届く。埋田氏の自宅の机が、UIAPduinoの製造拠点だ。

検査・梱包の自動化も、3Dプリンターやはんだ付けのスキルがあれば再現できる範囲で構成する方針だ。将来的には、RCサーボモータやロボット教材といったホビー用部品だけで検査を自動化し、100ボードの出荷検査にかかる時間を競うコンテストも開催したいと考えている。

オープンソースマニュファクチャリング構想の先にあるのは、UIAPduinoを誰でもどこでも製造できる状態だ。それは埋田氏自身のビジネスを食うことにならないのか。

「なりません。私はビジネスをしているのではなくて、このビジネスモデルが成立しますよと主張しているだけです。誰かが勝手に作って売ってくれたら、自分は買う側に回ります。体力のある会社が月100万個作りますと言ったら、コストパフォーマンスで太刀打ちできなくなる。そうなったら『しめしめ、これでダイソーで買えるぞ』と思いますね」

実際に、中国の基板製造・販売プラットフォームElecrowから「自社で製造・販売を一手に引き受けたい」というオファーがあったが、埋田氏は即座に断った。UIAPduinoの名前をライセンスする仕組みは取らない。オープンソースのライセンスに従って、誰でも自由にクローンを作って売ればよい。名前を貸せば責任だけが発生する。それよりも、設計と製造プロセスのすべてを公開して、勝手にクローンが生まれる状態を作りたい。

埋田氏はこの活動を続けるためのポリシーとして、融資を受けないことと正社員を雇わないことを決めている。「正社員を1人雇うと、終身雇用を前提にすれば2億から3億円の投資になります。設備投資をすれば減価償却とは言え、投資額を全て回収しなければなりません。そうなると高付加価値の商材を作らざるを得なくなるんです」。ミニマムな体制を維持することで、やりたいことをどこまでも続けられる構造を守っている。

分度器が100均で買えるなら、マイコンボードも買えるはず

UIAPduinoの購入者には、意外な傾向がある。埋田氏のターゲットは20代から40代だったが、実際に関心を持っているのは45歳以上が圧倒的多数で、しかも100%男性だという。

用途としては、アマチュア無線のモールス信号送受信装置を作るベテランのホビーストや、大学のオープンキャンパスで子供向けの電子工作キットを準備する教員などが目立つ。「若い人がガツガツやるというより、目的がはっきりしているベテランのホビーストや、教育現場で使いたいという人が多い」。

教育への展開は、埋田氏が強く意識している領域だ。ある大学の講師からヒアリングした結果が、設計に直接反映されている。

100人の学生を対象にした演習で、1台5000円のArduinoボードを100個用意すると50万円。さらに、配線ミスで学生がPCを壊すケースが年に数台あり、修理費を含めると年間100万円程度のコストが発生していた。このヒアリング結果が、USBの電源線・信号線すべてにヒューズを搭載するという設計判断につながった。

「分度器が必要だけど家にあるかと聞くと大体の人が『ないから100均に買いに行く』と答えるんですね。分度器のように小中学校で使われるものは、100均に置いてもらえます。教育機関で広く使われるようになれば、マイコンボードも100均で買えるようになるんです」

その視線は日本国内だけに向いていない。UIAPduinoのコミュニティには海外のメンバーもおり、海外のほうが多く売れているという。UNICEFが2023年にギニアの首都コナクリで実施した調査では、51〜56人のクラスに対してタブレット35台が配布されたものの、運用上の問題から生徒6人に1台程度しか行き渡らないケースが報告されている。デバイスが足りない教育現場は、開発途上国では珍しくない。

「Raspberry Piも最初は教育現場の不便さと高コストを解決するために生まれました。でもうまくいくと、たくさんお金を払える消費者のところにプロダクトを出していく方向に行ってしまう。自分は5万円のRaspberry Piを作るのではなくて、500円のものを作る側でいたいんです」

「これ、誰が作ったんだろうね」が最高の褒め言葉

UIAPduinoの次の展開として、CH32V006を搭載した上位ボードがベータ版の段階にある。売上原価は50円程度の上昇が見込まれるが、CH32V003版と比べて大幅に使いやすくなるという。また、IchigoJamの開発者である福野氏と連携し、BASIC互換のインタープリタを搭載した教育向けボードの構想もある。

販路はスイッチサイエンス、ビット・トレード・ワン、Elecrowで展開中だ。大学の教員から「いつも使っている商社で買えないか」という声が寄せられており、電子部品商社での取り扱いに向けた動きも進んでいる。

埋田氏に、UIAPduinoの将来像を聞いた。

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イベントで講演する、UIAPduino開発者の埋田祐希氏。

「水道の蛇口から水が出るけど、誰が作っているかは知らないですよね。それくらいインフラに溶け込んでいる状態が理想です。赤いスポーツカーはフェラーリが作っていると分かる。付加価値の高いものは作り手と紐づくんです。でも私が目指しているのは、そこらに落ちている石ころよりも当たり前にあるもの。『これ誰が作ったんだろうね、知らないけど使えるからいいや』になってくれたら嬉しいですね」

埋田氏が自宅の机から始めた290円のマイコンボードは、オープンソースマニュファクチャリングという思想を携えて、100均の棚を目指している。教育からスタートし、海外への展開も視野に入れる流れは、ArduinoやRaspberry Piといった偉大な先行プロダクトの歩みと重なる。ただし、製造工程そのものまでオープンソース化し、クローンが生まれることを歓迎するという点は、それらとは明確に異なる。UIAPduinoが描くのは、特定の企業や個人が独占しない、ものづくりのインフラそのものだ。

写真提供:UIAP

関連情報

UIAPduino(UIAP公式Webサイト)

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FabScene編集長。大学卒業後、複数の業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年当時に所属していた会社でwebメディア「fabcross」の設立に参画。サイト運営と並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者との取材を重ねるようになる。
2017年に独立、2021年にシンツウシン株式会社を設立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、企業のPR・事業開発コンサルティングやスタートアップ支援事業に携わる。
2025年にFabSceneを設立。趣味は365日働ける身体作りと平日昼間の映画鑑賞。

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