
米ラトガース大学の航空宇宙工学研究者、Xin Shan氏とOnur Bilgen氏が、モーター・ギア・連結機構を一切使わずに羽ばたく新型ドローン「ソリッドステート・オーニソプター」の設計を発表した。研究成果は2025年発行の学術誌「Aerospace Science and Technology」第166巻に掲載されている。
従来の羽ばたきドローン(オーニソプター)は、鳥のような羽の動きをモーターや複雑なギア機構で再現する。しかしこのアプローチでは可動部品が多く、小型化するほど高い羽ばたき周波数を維持するためにギアへの負荷が増し、耐久性が課題だった。
Bilgen氏らが採用したのは「誘導ひずみアクチュエーター」と呼ばれる仕組みだ。電圧を印加すると変形する圧電素子(ピエゾ電気材料)の一種、マクロファイバーコンポジット(MFC)を薄いカーボンファイバー製の翼に直接貼り付ける。電圧を加えるだけで翼が曲がり・ねじれ、推力と揚力を生み出す。「電気を圧電材料に与えると、余分な継手やリンク機構やモーターなしに、表面が直接動く」とBilgen氏は説明する。翼構造そのものがアクチュエーターとして機能するため、故障の原因となる回転部品が存在しない。

環境センシングや捜索救助、都市部での小口配送など、障害物の多い環境で精密に動く必要がある用途との親和性が高い。羽ばたき翼は回転プロペラと異なり「環境に接触しても自分自身も周囲も傷つけにくい」という特性がある。
ただし、現時点で実機は存在しない。研究チームは空力・構造・電気制御を統合した計算モデルを構築し、設計の実現可能性をシミュレーション上で検証した段階だ。「今日の圧電材料はまだ十分な性能を持っていない」とBilgen氏は認める。一方で「数学的モデルは、合理的な材料特性の仮定のもとで将来を見通すことを可能にする。現在は物理的に製造できない設計の実現可能性を示すことができる」と述べており、今後の材料開発の進展次第で実機化の道が開けると見ている。
同技術の応用は飛行体にとどまらない。「タービンブレードは基本的に回転する翼だ」とBilgen氏は語る。翼形状をリアルタイムで微調整することで空力効率を高められる可能性があり、風力タービンへの応用も視野に入れている。
小型自作ドローンの分野では、圧電アクチュエーターを使った実験的な翼の製作事例がいくつか報告されている。MFCは個人でも入手可能だが、十分な揚力・推力を得るには今後の材料性能の向上が不可欠だ。研究チームが開発した結合シミュレーション手法は、将来的なマイクロ飛行体設計の共通フレームワークになる可能性を持っている。

