「役に立たない」と「余白」から始まるプロダクトデザインーーICOMA 生駒崇光×znug design 根津孝太

FabScene(ファブシーン)

ICOMAの対談企画「トイボックス ガレージトーク」第2回のゲストは、デザイナーの根津孝太氏。トヨタ自動車で愛・地球博のコンセプトカー「i-unit」を手がけた後、2005年にznug designを設立。電動バイク「zecOO」、トヨタのコンセプトカー「Camatte」「Setsuna」、タミヤのミニ四駆「Astralster」「RAIKIRI」など、乗り物からおもちゃまで幅広いプロダクトのデザインで知られる。千葉大学教授、グッドデザイン賞審査委員も務める。

GROOVE Xでは生駒氏がデザイナー、根津氏がChief Design Officerとして約5年間「LOVOT」を共同開発した間柄だ。本記事はYouTube動画の中から、FabSceneの読者に響きそうなトピックを抜粋・再構成してお届けする。

目次

LOVOTを一緒に作った2人が、改めて「役に立たない」を語る

生駒:LOVOTって当時「役に立たないロボット」を掲げていたじゃないですか。僕はおもちゃメーカーのプロダクトデザイナーとしてGROOVE Xに入ったんですけど、「役に立たない」ってある意味おもちゃみたいな話ですよね。でもその先にある本質的な価値に、みんなで挑んでいた。

「本当に売れるのか」懐疑的な声もありましたけど、結果として公式発表で1万8000台を超えていて、僕もついに2台お迎えしてしまいました。

根津:結局やった先に喜ぶ人がいるかどうかだと思うんですよ。マーケティングしてるのかと聞かれると、僕の場合はあまりしていない。「俺がこんなに欲しいものは、誰か絶対欲しいだろう」という感覚でやってきました。究極のプロダクトアウト(作り手の発想起点でものを作ること)は究極のマーケットイン(市場のニーズに応えること)だ、と自分に言い聞かせてます。

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根津孝太氏

生駒:工業デザイナーって普通、機能や実用性、コストと品質のバランスを詰めたりするものですけど、根津さんと僕は割と「役に立たない」と言われるジャンルを追求してきた方かなと思います。

根津:「役に立つ」の定義によるよね。自分が幸せになってるなら役に立ってるじゃないという考え方もある。でも僕はもっと根源的な話で、「ハレ」と「ケ」に近いと思っています。普段は生きるために食べる、狩りをするという日常がある。その対比として祭りや遊びがある。ずっと実用ばかり真面目にやってきたからこそ、今日ははっちゃけるぞ、と。人間は心を育てる中で、そういうものを必要としてきた生き物だと思います。

タモリさんの「仕事じゃないんだぞ、真面目にやれ」という言葉がありますよね。あれ大好きなんですよ。仕事はやらなきゃいけないからやる、やることが決まってる。でも遊びとか「役に立たないもの」を作るのは、相当ちゃんと志を持ってやらないと、いつでもやめられてしまう。だからこそ真面目にやらなきゃいけない。

ロボットの「顔」が足りない──フィジカルAI時代にデザイナーが見ている景色

生駒:フィジカルAIの文脈でいろんなロボットが出てきていますけど、みんなロボットの顔を見ていない気がするんですよ。人間だったら顔が一番大事じゃないですか。アクチュエーターやセンサー、AIの脳みそといった要素技術はもちろん重要だし、今まさに統合され始めている。でも技術が統合された先では、顔のデザインが決定的に重要になると思うんです。

根津:山中俊治先生が、ロボットの存在感の根源は視線にあるんじゃないかと言っていたんですよね。見ている、見られている、その双方向性こそが存在の根幹だと。2001年ごろの話で、当時からそういうことを考えていた。

生駒:僕はLOVOTに入る前、トランスフォーマーみたいなかっこいいメカのデザインばかりやっていたんです。だからLOVOTでは逆に、自分が得意としてきたかっこいいメカのディテールを見つけたら、先回りして潰すことに全力を注ぎました。

根津:センサーは感覚器官なわけだから、目に見立てるのが一番自然なんですよ。

生駒:でも今のヒューマノイドロボットは、口の中の喉を全部見せていたり、歯がむき出しだったりする。反応する機関が丸出しになっているから、怖いと感じるんじゃないかなと思ってます

根津:ボストン・ダイナミクスの人型ロボットも最初は怖かったじゃないですか。ところがNG集が公開されたら、もう急に好きになった。こんなに頑張ってたんだとか、こんな痛そうな転び方してオイルまで吹き出してるのかとか。強面の俳優がNGシーンで意外とおちゃめだったときの感覚に近い。完璧で隙がないよりは、「ちょっとドジだけど頑張ってる」方がかわいいんですよ。

この話は自動運転にも通じます。自動運転は、どこまでいっても完璧にはならないと僕は思っています。だとしたら、どうやって完璧なものを作るかより、人間がどう受け入れるかという「心のデザイン」の方が本体ではないかと。自動運転車はもう一つの人格としてみなすしかない。こいつは10年間ミスしないでここまで来たじゃないか、って。そういう見方で接しないと、自動運転はいつまでたっても社会に根付かないと思うんです。

生駒:2023年にパリで電動キックボードの規制が入る直前に現地を訪れたんですが、道端でキックボードが倒れてハンドル部分が車に轢かれていました。誰も片付けない。もしあの乗り物に顔があって、人格を感じられる存在だったら、人はもう少し大事にするんじゃないかと思ったんです。

根津:何かを大事にできないことの根っこは、想像力の欠如だと僕は思っています。すべてのものには必ずナラティブ(物語・ストーリー)がある。それが語られているか、伝わっているかの違いでしかない。

そぎ落とすほど、人は遊び出す──余白のデザイン

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生駒崇光氏

根津:LOVOTのデザインは、そぎ落とせるものは全部そぎ落とすという方針で徹底しました。シンプルにしていく方がデザインとしては難しい。でもシンプルになると、余白が結果的に生まれてくるんです。

生駒:僕が開発しているタタメルバイクも、根津さんとの仕事の影響がすごく大きかった。直線と円弧だけで済むなら、極力それで済ます。その結果、変形機構の面白さが際立つようになりました。
しかもシンプルだからこそ、ユーザーが自分で手を加えたくなるようで、ガチャガチャのタタメルバイクを毎回買って独自のカスタムをする方が出てきた。電飾を仕込んだり、本物にはないミラーを付けて変形にも対応させたり。僕が諦めた改造をやり遂げてしまう人もいました。

根津:僕も、最初のAstralsterからずっと、ミニ四駆ではちょっと余白を残したデザインにしています。着脱式パーツでオープンカー仕様にできるようにするとか。いろいろやりたくなるだろうなという予感を、少し忍ばせてある。

生駒:あれを発表されたとき、根津さんに「流石わかってますね」ってコメントした記憶があります。

根津:ありがとうございます(笑)。でもね、こっちが「ここが余白だ」と思っていても、予想外のところにねじ込んでくる人もいるからね。120%ぐらい来る。それはそれで面白い。

生駒:自動車メーカーさんは完成品としてのクオリティを大事にするので、改造されることを好まないし、それは正しいんです。でも僕は素人だし未完成だし、意図的に余白も残していた。結果として思った以上に楽しいことが起きました。

根津:おもちゃは映像と違って参加性がある。子供がミニカーを走らせて「こうしたら楽しいじゃん」と介入できる。手の中で偶発的なことが起きる。コンセプトアートや映像との大きな違いはそこで、遊べるということは、こちらが参加できるということなんです。

生駒:映像は受動的ですよね。デザイナーが描いた素晴らしい絵を見て「こういう世界があるんだ」と受け止める。でもおもちゃは双方向で、ユーザーが介入できる。しかも机の上や手の中で起きるから、偶発性がある。それがコンセプトアートとの一番の違いだと思います。

ゲーム業界ではPVを先に作ってからゲーム本体を開発する文化がありますよね。もう少しああいうコンテンツ屋さん的な考え方を製造業に持ち込んだ方が、新規事業もうまくいくんじゃないかと思います。ビジュアルやプロトタイプで「こんな世界がある」と見せれば、共感を得やすくなる。

おもちゃから始めれば、実物に届く

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根津氏がデザインを手掛けたタミヤのミニ四駆「RAIZZAN(ライザン)」

根津:田宮会長(故・田宮俊作氏/元タミヤ代表取締役会長兼社長)が、「ミニ四駆は自動車につながるものだ」とおっしゃっていました。ミニ四駆、ラジコン、実車がひと繋がりになる。模型なんだから当然だ、と。普通は実車があって模型が生まれるわけだけど、僕はその逆──模型から実車へという流れをやってみたい。

生駒:僕のタタメルバイクもまさにその道で、GROOVE Xの社員時代に同人活動としてガチャガチャのバイクを作り始めたのが原点なんです。根津さんにラーメン屋で「こんなの作りたいんですけど」ってガチャガチャの試作を見せたところから話が動き始めた。おもちゃから始まったアイデアが、公道を走る乗り物になりました。

根津:今年、僕が教えている千葉大の学生で、1人でバイクを設計してナンバーを取った子がいました。彼の論文にタタメルバイクが出てくるんですよ。生駒さんが学校に直接来てくれたこともあったけど、直接じゃなくても、ものを通じてちゃんと若い世代が励まされている。

生駒:それは本当に嬉しい話ですね。でも僕がこのトーク企画を始めた理由の一つは、ハードウェアスタートアップ界隈の「厳しい」ムードがたまりすぎてないかと感じたからなんです。皆さん趣味ではすごいものを作ってるのに、仕事になるとつまらなそうにしている。楽しいからやってるのに、その楽しさをもっと仕事に持ってくればいいじゃないかと。

根津:そもそも難しいかどうかという問い自体が違うんじゃないかな。面白いかどうか、やりたいかどうかでしょう。「難しいからやらない」が答えになってしまったら、それは違う。僕は学生にはいつも「できるよ」「やればいいじゃん」としか言わないんですよ。無責任に言っているつもりはなくて、絶対なんとかなるから。

生駒:3Dプリンターがあれば1000円ぐらいでプロトタイプが作れる時代ですからね。おもちゃで試して、小さく作って、手に取れるものにする。そこから始めれば、実物に届く道は確実に短くなっている。僕らもまだ答えは出ていないので、とにかく作って早く試す。おもちゃのいいところは、そのサイクルが速いことですから。

根津:でも僕は、生駒さんが今やろうとしているところに、自動運転車なんかも含めて、今後のものづくりへの答えもちゃんと出てくると思っていますよ。おもちゃで試して、小さいスケールからでも新しい何かを見せていく。そこに人格を見出せるかどうかが勝負で、そういうときに生駒さんが考えていることはダイレクトに生きてくるはずです。

生駒:ありがとうございます。お互いまだまだ作り続けましょう。

本記事は対談の一部を抜粋・再構成したものです。LOVOTの開発秘話やおもちゃののデザイン論、ワンダーフェスティバルの話題など、ここで紹介しきれなかったトピックも多数あります。対談の全編はYouTube動画でご覧ください。

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桑沢デザイン研究所プロダクトデザインコース卒 株式会社タカラトミーで「トランスフォーマー」の海外事業を担当。その後、株式会社CerevoでIot家電製品の開発を行い、 2016年からGROOVE X株式会社にて家族型ロボット「LOVOT」 の開発に携わる。2021年に ICOMA Inc.を創業。

専門学校桑沢デザイン研究所非常勤講師
総務省公認 異能β
科学未来館 上席客員研究員 ~2025/3

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