生きた細胞内に3Dプリントで構造体を作成、スロベニアの研究チームが成功

FabScene(ファブシーン)

スロベニアのJ. Stefan Instituteとリュブリャナ大学の研究チームが、生きた人間の細胞の中に、レーザーを使って直接立体的な構造物を作り出すことに世界で初めて成功した。Advanced Materials誌に2026年1月16日付で掲載された研究成果だ。

人間の細胞は髪の毛の太さの約5分の1、わずか0.02ミリメートルほどの大きさしかない。この極小の空間に、まるでミクロの工場のように構造物を作れるようになったことで、細胞の動きを追跡したり、病気の仕組みを調べたりする新しい方法が開けた。

細胞の中に何かを入れることは、これまで非常に難しかった。細胞は直径1マイクロメートル(0.001ミリメートル)以上の固い物体をほとんど取り込めないからだ。免疫細胞は異物を食べることができるが、膜で包み込んでしまうため、細胞内で自由に機能させることができなかった。

研究チームが使ったのは「2光子重合」という技術だ。光で固まる特殊な液体材料に、超高速で点滅するレーザー光を当てると、光が集中した一点だけが固まる。この原理を使い、細胞の中で立体構造を層を重ねて作り上げた。

具体的な手順はこうだ。まず、髪の毛よりはるかに細いガラス針を使って、光で固まる液体を細胞内に注入する。この液体は細胞に害を与えず、固まらなかった部分は自然に溶けてなくなるよう設計されている。

次に、顕微鏡を通して超高速レーザーを照射する。レーザーの焦点を毎秒1センチメートルという高速で動かしながら、設計図通りに材料を固めていく。わずか3〜10秒で、0.01ミリメートルの立体構造が完成する。

実験では、体長0.01ミリメートルの象の立体像、研究所のロゴマーク、格子状の構造など、さまざまな形を作ることに成功した。顕微鏡で観察すると、これらの構造物は確かに細胞の中に存在し、細胞の核が少し変形してスペースを作っている様子が確認できた。

細胞への影響も調べられた。24時間後、構造物を持つ細胞の約45%が生き残った。これは細胞に針で穴を開けただけの場合とほぼ同じ生存率だ。生き残った細胞は正常に分裂し、構造物は娘細胞の一方に引き継がれた。ただし、大きめの構造物を持つ細胞は、分裂に通常より1時間以上長くかかることが分かった。

この技術の応用例として、研究チームはいくつかの機能的な構造物も作った。一つは細胞追跡用のバーコードだ。小さな円柱を組み合わせて作ったこのバーコードは、人体内の全細胞数を超える2×10の18乗通りの識別番号を作れる。これを使えば、個々の細胞を長期間追跡できる。

また、レーザー光を当てると特有の光のパターンを出す回折格子や、直径0.009ミリメートルという極小のレーザー発振器も細胞内に作ることに成功した。

将来的には、細胞内に小さなレバーやバネを作って細胞に力を加えたり、薬を詰めた構造物から薬を少しずつ放出したり、細胞内の電気信号を測定したりすることが考えられている。

現在の技術では一つ一つの細胞に手作業で注入する必要があり、大量の細胞を処理するのは難しい。しかし、細胞という極小空間に自由な形の構造物を作れるようになったことで、病気の研究や再生医療など、さまざまな分野での応用が期待される。

関連情報

How to get an elephant inside a single cell(Nanowerk)

fabsceneの更新情報はXで配信中です

この記事の感想・意見をSNSで共有しよう
  • URLをコピーしました!