予算8000円、ラズパイでホームレコーディングスタジオを作る

Raspberry Pi財団が公式マガジンで、約8000円の予算でプロ品質の録音が可能なホームレコーディングスタジオを構築できる新しいガイドを発表した。

主役となるのは、2024年12月に発売されたRaspberry Pi 500だ。この手のひらサイズのコンピューターが「完璧なレコーディングスタジオコンピューター」と評価される理由は、その静寂性にある。従来のPC環境では避けられなかった冷却ファンの騒音が、デリケートな音響録音の大敵だった。Raspberry Pi 500は完全無音で動作するため、マイクロフォンが不要な雑音を拾う心配がない。

目次

8000円で構築可能な音響処理空間

公式ガイドによると、音響処理を施した録音空間の構築に必要な費用は50ポンド(約8000円)以下だ。この予算には、吸音タイル36ポンド、テープ8ポンド、チャリティーショップで購入したテーブル5ポンドが含まれている。

空間設計では、車庫や屋根裏部屋の隅といった小さなスペースも有効活用できる。プロ仕様のスタジオパネルの代替として、オフィス家具として販売されている音響スクリーンパネルの活用も提案されている。楽器録音をする場合は、部屋の角にロックウール(断熱材)を詰めたバストラップの設置も推奨されているが、ボーカル録音程度であれば簡単な吸音処理で十分だという。

予算に応じた機材構成

機材構成は予算に応じて段階的にアップグレードできる設計となっている。最も基本的な構成では、USBコンデンサーマイク、スタジオモニター、ヘッドフォンがあれば十分だ。

外部オーディオデバイスとして、AudioQuest「DragonFly Red」(135ポンド/約2万6000円)のようなポケットサイズのUSB DAC(デジタル・アナログ・コンバーター)とUSBマイクロフォンの組み合わせが推奨されている。この構成で、ボーカルや朗読の録音、編集、ミキシングが品質や遅延の問題なく可能だ。

より本格的な制作には、Focusrite「Scarlett 2i2」(159ポンド/約3万1000円)のような専用オーディオインターフェースが有効だ。これにより、48Vファンタム電源対応のコンデンサーマイクやXLR接続の機材が使用できるようになる。

マイクの選択においても、用途に応じた柔軟な提案がなされている。周辺の環境音などのノイズを拾いやすい空間の場合は、感度の低いダイナミックマイクロフォン(Shure「SM-58」など)が推奨される一方、音響処理された空間では大型ダイアフラムのコンデンサーマイクロフォン(Audio Technica「AT2020」やRode「NT-1」など)が適している。

ソフトウェア面では、低レイテンシー音声処理のためのJACK2、システム音声用のPipeWire、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)としてReaper、Ardour、Qtractorなどが利用可能だ。

特筆すべきは、Focusrite製オーディオインターフェースに対する充実したLinuxサポートだ。開発者であるGeoffrey Bennett氏の貢献により、Linux kernel 6.8以降では専用ドライバーが標準搭載されており、洗練されたGUIコントロールソフトウェアも利用できる。

実際の性能についても現実的な評価が示されている。PCM録音ソフトの多くで波形表示がリアルタイム録音に追従しないケースがあるものの、録音される音声自体は完璧な品質を保っている。また、プロセッサー集約的なシンセサイザーボイスやエフェクトがDAWのパフォーマンスに影響を与える場合があるが、基本的な録音・編集作業には十分な性能を発揮する。

このガイドは、高額な機材や専門的な知識がなくても、創意工夫によって本格的な音楽制作環境を構築できることを実証している。特に、コロナ禍以降は在宅での音楽制作ニーズが高まっている中、既にRaspberry Pi 400を使った制作実績があり、その静音性も実証済みであることも心強い。

ベッドルームでの音楽制作を志すMakerにとって、公式マガジンのガイドは音楽制作の民主化を象徴する一つのケースになりそうだ。

関連情報

How to build a Raspberry Pi 500 home recording studio: setting up your space
How to build a home recording studio with Raspberry Pi 500: choosing your equipment
How to build a home recording studio with Raspberry Pi 500: choose and install your software

FabScene編集部

目次