Arduinoが次世代RTOS「Zephyr」ベースのコア v0.3.2をリリース、高性能マイコンボード5機種で利用可能

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Arduinoが2025年8月6日、ZephyrOS(Zephyr RTOS)をベースとしたArduinoコアのバージョン0.3.2をリリースした。2024年12月のベータ版公開から約8カ月を経て、SPI通信、PWM制御、カメラサポートなどの機能追加と多数のバグ修正を実施した。対象となるのはGIGA R1 WiFi、Opta、Portenta H7、Portenta C33、Nano 33 BLEの5機種で、従来のMbed OSからの移行が進められている。

Arm Mbed OS終了に伴う戦略的移行

この移行は、ArmがMbed OSの開発終了を発表したことが背景にある。Mbed OSは従来、一部のArduinoコアで使用されていたリアルタイムOS(RTOS)だった。Arduinoは開発者への継続的なサポートとイノベーションを確保するため、より現代的でスケーラブル、かつ機能豊富なRTOSであるZephyrOSへの移行を決定した。

ZephyrOSは低消費電力でリソース制約のあるデバイス向けに設計されたオープンソースの最先端RTOSだ。組み込み開発コミュニティの進化するニーズに対応し、Arduinoユーザーが高度なアプリケーション開発のための堅牢で活発にメンテナンスされるプラットフォームを利用できるようになる。

今回のリリースでは、基盤となるZephyr RTOS 4.2.0への更新により、パフォーマンスと安定性が向上した。また、産業用プログラマブルロジックコントローラ(PLC)ファミリーのOptaが新たにサポート対象に加わった。

Portenta H7では周辺機能が大幅に拡張され、SPI通信、Wire(I2C)、PWM制御、ADC(アナログ-デジタル変換)機能が利用可能になった。さらに、GalaxyCoreのGC2145イメージセンサーに対応し、画像処理アプリケーションの開発が可能になった。

Portenta C33では無線機能としてWi-FiとBluetooth Low Energy(BLE)機能が追加され、IoTアプリケーション開発が本格化した。加えて、コミュニティ貢献により、GIGA Display Shieldのサポートが進行中となっている。

開発プロセスの最適化

Arduino Core for ZephyrOSは、Arduinoスケッチの構築と実行方法に大きな変更をもたらしている。しかし、ArduinoコアとZephyrOSの統合は背後でシームレスに動作し、リアルタイムスケジューリングやマルチタスクなどの高度なRTOS機能を提供しながら、開発プロセスは従来と同様に簡潔に保たれている。

新しいアーキテクチャでは、スケッチはELFファイルとしてコンパイルされ、事前コンパイルされたZephyrベースのファームウェアによって動的にロードされる。これにより、スレッド処理、プロセス間通信、リアルタイムスケジューリングなどのZephyrサブシステムの機能を利用できるようになった。

コンパイル速度も大幅に改善された。ユーザーコードとライブラリの薄いレイヤーのみがコンパイルされ、ZephyrOSの残りの部分は既にバイナリ化されているため、コンパイルが高速化し、生成されるバイナリファイルも小さくなる。

現在、Arduino Core on Zephyrは5機種で利用可能だ。対象となるのはArduino最上位のマイコンボードであるGIGA R1 WiFi、産業用PLC向けボードのOpta、高性能デュアルコアマイコンボードのPortenta H7、ワイヤレス機能搭載のエントリーレベルPortentaであるPortenta C33、そして小型BLE対応ボードのNano 33 BLEとなっている。

ハードウェア開発者への影響

ZephyrOSベースのコアは、従来のArduino環境では困難だった高度な機能をもたらす。リアルタイムタスク処理、効率的なメモリ管理、低消費電力制御などが、Arduino特有の簡単な記述方法で利用できるようになる。

特に産業用途では、Optaでのリアルタイム制御や、Portenta H7での高速データ処理が重要になる。カメラやディスプレイのサポート追加により、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)やマシンビジョンアプリケーションの開発も容易になった。

ただし、現在はベータ版のため、本格的な製品開発への採用には慎重な検証が必要だ。Arduinoはコミュニティからのフィードバック、バグレポート、貢献を歓迎しており、GitHubのIssuesページでの報告を呼びかけている。

ソースコードはGitHubリポジトリで公開されており、開発者が貢献できる体制が整備されている。この移行により、Arduinoユーザーは今後も使い慣れた言語とライブラリを使用しながら、より高性能なリアルタイム処理機能を活用できるようになる。

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