
レトロコンピューティング愛好家が、一般的なカセットテープを使用して従来の100倍以上の高速データ転送を実現する「Vacuum Turbo Tape Drive」プロジェクトを進めている。YouTubeで公開された開発動画では、1960年代のIBMメインフレーム用テープドライブの技術を現代に応用し、64KBのデータを10秒以下で読み込むことを目標に掲げている。
プロジェクトを手がけるエンジニアは、1980年代のCommodore社製パソコン用カセットテープシステムの毎秒50バイトという極めて遅い転送速度を大幅に上回る性能を目指している。情報理論に基づく計算では、カセットテープの15kHzの帯域幅と40dBの信号対雑音比を活用することで、毎秒20KBの転送速度が実現可能としている。さらに60dBの動的範囲を活用すれば毎秒30KBに達する可能性があるという。
IBM 729テープドライブの技術を参考
開発の核となるのは、1960年代のIBM 729テープドライブで使用されていた「真空コラム」技術だ。この技術では、テープを真空で吸引して安定したループを形成し、高速な開始・停止を可能にする。IBM 729では、テープが直接読み取りヘッドに向かうのではなく、まず真空コラムに吸い込まれ、リザーバーとしてコイル状に蓄えられる仕組みになっていた。
現代版の設計では、テープが一方のリールから出てローラーに触れた後、真空コラムに降下し、再び上昇してキャプスタンとピンチローラーに挟まれ、右側のローラーキャプスタンペアを経て受け取りリールに巻き取られる構造を採用している。
真空ポンプの開発過程
開発者は当初、PCファンにアダプターを取り付けた構成で真空システムの構築を試みたが、十分な吸引力を得られなかった。実験を通じて必要な吸引力を測定した結果、テープを安定して保持するには相当強い真空が必要であることが判明した。使用したNoctuaファンでは吸引力が全く不足していた。
次に24V DCモーターを使用した遠心ポンプの開発に着手し、3Dプリンターで製作したインペラーを使用してテストを重ねた。様々なブレード設計を試行した結果、最終的にはモーターの回転数ではなく、インペラーの直径を78mmから155mmに拡大することで目標の吸引力に到達した。さらに、インペラーを密閉式ハウジングに変更することで、12V電源でも十分な真空を実現することに成功した。
動画では実際に真空チャンネルのテストも公開されており、6Vの低電圧でも左右両方のチャンネルが正常に動作する様子が確認できる。視聴者からは「機械的な優雅さが素晴らしい」「適切なエンジニアリング」といった評価が寄せられている。
次回のエピソードでは、テープの動きとその制御について取り上げる予定だという。