スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)とイタリアのボローニャ大学の研究チームが、文章や音声を扱うAIモデルを数百mWで走らせるマイコン「Chimera」を試作し、2026年9月にスペインで開かれたESSERCで発表した。EUのCONVOLVEプロジェクトの成果にあたる。スマホやノートPCの中でAIを動かそうとすると電力と面積の枠がすぐ足りなくなるが、その枠を数百mWと数mm角に置いたまま実測した。
構成の中心は、10個のRISC-Vコアだ。全体を仕切るホストにRV32IMCを1個、計算を担うクラスターにRV32IMAを9個並べる。うち1個はデータの搬送に専念する。ここへトランスフォーマー用のアクセラレーターを密に結び付けた。演算器は16個で、それぞれが1サイクルに64回の積和を回し、合わせて1サイクルあたり2048回の演算をこなす。重みも活性値も8ビットの整数に落とす。
処理を速くしても、データが届かなければ意味がない。研究チームが手を入れたのはそこで、クラスター間で共有する256KBのL2メモリーを128KBずつ2つに分けて交互に配置し、合計563Gb/sの帯域を確保した。あわせて、遅れが許されない制御用の通信を、大量のデータ転送から切り離す仕組みを入れた。最悪でも34サイクルで応答が返り、従来の設計に比べて待ち時間を最大16分の1に抑えたとしている。
GlobalFoundriesの22nmで製造した実チップで測った。電力効率は200MHz・0.6V時に3.1TOPS/W、性能を優先した550MHz・0.88V時は896GOPSで消費電力は600mWだった。同世代のAI用マイコンと比べ、電力効率で1.37倍、面積効率では100倍としている。今回評価した部分の面積は3.19mm2で、ダイ全体は12mm2ある。
実際のモデルを載せた測定値も出ている。文章向けのMobileBERTは毎秒7.7〜21回で、1回あたり9.2〜16mJを使う。音声認識のWhisperのエンコーダー部分は毎秒2.0〜5.4回で36〜72mJ、画像向けのDINOv2-Sは毎秒1.2〜3.3回で60〜118mJだった。研究チームは、600mWという枠を、扇風機のような冷却装置を持たないウェアラブルや手のひらサイズのロボットが収まる範囲だと説明している。
設計はGitHubのPULP Platformで公開されている。ハードウェアはSolderpad Hardware License 0.51、ソフトウェアはApache-2.0で、論文が参照するCONVOLVE-TOのタグも置かれている。CONVOLVEはEUのHorizon Europeから助成を受けた18機関の共同研究で、2026年4月に最終会合を終えている。