
3Dプリンターで造形した部品は、全体が均一な特性を持つ——これが長らくの前提だった。複数の素材を使い分けなければ、骨のように硬い部分と皮膚のように柔らかい部分を1つの部品の中に共存させることはできなかった。米サバンナリバー国立研究所(SRNL)、テキサス大学オースティン校(UT)、ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)、サンディア国立研究所らの共同チームが発表した「CRAFT(Crystallinity Regulation in Additive Fabrication of Thermoplastics)」は、この前提を覆す技術だ。1種類の液体樹脂を使い、光の強弱を変えるだけで1つの造形物の中に段階的な硬さと透明度の分布を作れる。同研究は2026年1月29日付けでScience誌に掲載された。
仕組みの鍵は「結晶化度」だ。ポリマーの分子鎖の秩序的な配列(結晶性)が高いほど硬くなり、低いと軟らかくなる——これが高密度ポリエチレン(牛乳パック)と低密度ポリエチレン(ポリ袋)の違いの根本だ。CRAFTは光重合による熱可塑性ポリマーの立体化学をリアルタイムで制御し、造形中にボクセル単位で結晶化度を変化させる。使用するのはシクロオクテンという汎用の液体樹脂。DLPまたはLCDプロジェクターで投影するグレースケール画像のピクセルごとの光量が、その部位の結晶化度を決定する。
UTのチームはCRAFTを使って市販の3Dプリンターで人間の手の精密モデルを造形した。皮膚・靭帯・腱・骨の各部位が1種類の素材から出来ているにもかかわらず、それぞれの硬さと質感を再現している。実際に引っ張り試験を行うと、柔らかい部分から順番に伸び、段階的な変形を示す。
「1種類の素材から、光の強弱を変えるだけで非常に異なる特性を持つ材料ができる」(UT助教授Zak Page氏)。想定される応用領域は医学教育用の解剖モデル、カスタム義肢、ソフトロボティクス、衝撃吸収メタマテリアル、情報記録など多岐にわたる。特に義肢への応用について、Oregon State大学のDevin Roach共著者は「個人の解剖学的特性に合わせたカスタマイズが可能になり、走行やスポーツ時の衝撃吸収が改善できる」としている。

