Deep Fission、地下1.6kmに設置する小型原子炉「Gravity」を発表——建設期間6カ月、コスト80%削減を目指す

FabScene(ファブシーン)

米Deep Fissionは、地下約1.6km(1マイル)のボーホール(掘削孔)内に設置する小型モジュール式原子炉「Gravity Nuclear Reactor」(以下、Gravity)を発表した。

同社は、標準的な加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)を深いボーホール内に設置するという手法を採用する。地下1マイルの水柱が生み出す約160気圧の静水圧は、PWRの運転に必要な圧力と一致する。従来の原子炉が必要とする圧力容器や大規模な格納施設の代わりに、地球の重力と地質を利用して安全性を確保するというアプローチだ。

共同創設者兼CEOのLiz Muller氏は、重力は自然界で最も信頼できる力の一つであり、その信頼性を原子炉設計に組み込んだと述べている。同氏は以前、核廃棄物の地下処分を手がけるDeep Isolationを創業しており、その際に顧客から受けた問いかけ、すなわち地下深くに誤って新燃料を入れた場合に連鎖反応が起きるのではという仮説が、今回の技術の着想につながったという。

Gravity原子炉は高さ約9m、直径約0.75mで、ボーホール内に収まるサイズに設計されている。1基あたりの出力は15MWeで、複数基を組み合わせることで最大1.5GWeまでスケールアップできるモジュール式構造を採用する。

既存技術の組み合わせで開発期間を短縮

Deep Fissionの特徴は、3つの既存技術を組み合わせている点にある。原子力分野の標準的なPWR、石油・ガス産業で確立された深層掘削技術、そして地熱発電の熱移送技術だ。既存のサプライチェーンと低濃縮ウラン(LEU)燃料を活用できるため、新型炉の開発に比べて規制承認への道筋が見通しやすいとしている。

建設期間は着工から運転開始まで約6カ月を見込む。内訳は掘削に4週間、原子炉の設置に8〜10週間、試運転に約2カ月となっている。従来の原子力発電所と比較してプロジェクトコストを最大80%削減でき、均等化発電原価(LCOE)は50〜70ドル/MWhを目標としている。

地上設置の原子炉が直面する航空機衝突、車両衝突、竜巻、ハリケーン、洪水といったリスクは、地下設置により排除される。最悪のシナリオでも原子炉やボーホールへの経済的損失にとどまり、人や環境への影響はないとMuller氏は主張する。運転終了後は同じボーホールを核廃棄物の地層処分に活用することも検討している。

Deep Fissionは2023年にLiz Muller氏と父親のRichard Muller氏(カリフォルニア大学バークレー校物理学名誉教授)によって設立された。2024年に400万ドルの資金調達を完了し、その後リバースマージャーを経て追加で3000万ドル(約45億円)を調達している。

同社は米エネルギー省(DOE)の原子炉パイロットプログラムに選定されており、2026年7月の初臨界達成を目指している。データセンターや産業施設向けに12.5GW分の意向表明書(LOI)をすでに締結済みだ。パイロットサイトの候補地にはユタ州、テキサス州、カンザス州などが挙がっており、商用規模のプロジェクトは規制承認の進捗次第で2027〜2028年に着工する見通しとなっている。


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