既存薬2種類の組み合わせでマウス寿命が35%延長、「薬のカクテル効果」で老化研究に新展開

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すでに病院で使われている2つの薬を組み合わせるだけで、マウスの寿命を最大35%も延ばすことに成功した——。ドイツのマックスプランク生物学研究所の国際研究チームが、こんな驚きの研究結果を2025年1月29日に発表した。使用したのは、がん治療ですでに承認されている2つの薬。単体でも効果があったが、組み合わせることで予想を上回る「1+1が3になる」効果を実現した。

この研究のポイントは、まったく新しい薬を開発するのではなく、既存の薬の新しい使い方を発見したことだ。使用したのは「ラパマイシン」と「トラメチニブ」という2つの薬で、どちらも現在がん治療に使われている。ラパマイシンは臓器移植時の拒絶反応を防ぐ薬としても知られており、トラメチニブは皮膚がんの一種である悪性黒色腫の治療薬として使用されている。

研究チームは876匹のマウス(雄482匹、雌394匹)を使った大規模実験を実施。生後6カ月から薬を与え続け、一生涯にわたって効果を調べた。その結果、ラパマイシン単独では寿命が約17%延長、トラメチニブ単独では約7〜10%の延長だったが、2つを組み合わせると驚くべきことに30〜35%もの延長を達成した。

人間に置き換えると、平均寿命80歳の人が108歳まで生きる計算になる。もちろん、マウスでの結果がそのまま人間に当てはまるわけではないが、この数字のインパクトは大きい。

単なる延命ではなく「健康に長生き」を実現

さらに注目すべきは、単に寿命が延びただけでなく、健康状態も大幅に改善したことだ。薬を組み合わせて投与されたマウスは、がんの発生が遅れ、全身の炎症が抑えられた。高齢になっても活発に動き回り、心臓の機能低下も緩やかだった。

特に興味深いのは脳への効果だ。通常、マウスは年を取ると脳でのエネルギー消費が増加し、これが認知機能の低下につながるとされている。しかし、薬の組み合わせを受けたマウスでは、この変化が抑えられていた。つまり、「ボケにくい」可能性があるということだ。

血液検査では、炎症を引き起こす物質が大幅に減少していることも確認された。これは全身の「老化スピード」が遅くなったことを意味している。研究者たちは、この2つの薬が体内の異なる「老化スイッチ」を同時にオフにすることで、単独使用では得られない強力な効果を生み出したと分析している。

人間での応用に向けた期待と課題

この研究の最大の魅力は、使用した薬がすでに人間で安全性が確認されていることだ。新薬開発には通常10年以上かかるが、既存薬の組み合わせなら比較的早期に臨床試験を開始できる可能性がある。

研究を主導したLinda Partridge博士は「マウスと同じような寿命延長を人間で期待するのは現実的ではないが、人生の後半をより健康で病気のない状態で過ごせるようになることを期待している」とコメントしている。

実際、ラパマイシンについては、すでに人間を対象とした小規模な研究で免疫機能の改善が報告されており、女性の更年期を遅らせる効果も示唆されている。今回の研究は、薬の組み合わせによってさらに大きな効果が期待できることを示した点で画期的だ。

現在、世界各国で「健康寿命」を延ばす研究が活発化している。日本でも超高齢社会を迎える中、この種の研究への注目度は高い。今回の発見は、アンチエイジング研究に新たな方向性を示すものとして、今後の展開が注目される。

研究チームは今後、最適な投与量や投与タイミング、他の薬との組み合わせなどについてさらに詳しく調べる予定だ。また、人間での安全性と有効性を確認する臨床試験の準備も進められている。

関連情報

Nature Aging掲載論文

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FabScene編集部