
コンクリート橋の老朽化は世界的な課題だ。多くの橋が1980年代以前に建設され、設計寿命の終わりに近づいている。スイス連邦材料試験研究所(Empa)の研究チームが、加熱すると元の形に戻ろうとする「形状記憶鉄合金」(Fe-SMA)を使い、損傷した橋の耐荷重を2倍に高める補強工法を開発した。
現在、橋の補強には超高性能繊維補強コンクリート(UHPFRC)の層を床版に追加する方法が広く使われている。UHPFRCは非常に緻密で耐水性に優れ、その中に従来の鉄筋を埋め込んで耐荷重を高める。Empa構造工学研究室のAngela Sequeira Lemos氏らのチームは、この鉄筋をFe-SMAの棒材に置き換えた。
Fe-SMAは通常の異形鉄筋のように製造され、あらかじめ引き伸ばした状態で現場に納入される。設置後に約200℃まで加熱すると、棒材は元の形に縮もうとするが、周囲のコンクリートに拘束されているため収縮できず、内部に圧縮応力が発生する。この力がひび割れを閉じ、変形した部材を持ち上げ、橋の寿命を延ばす。複雑な緊張装置は不要だ。Sequeira Lemos氏は「棒材を固定して加熱すれば、あとは勝手にやってくれる」と語った。
チームはまず、Fe-SMAとUHPFRCという2つの材料を初めて組み合わせ、加熱後も良好な付着力が維持されることを確認した。その後、Empaの建築実験棟で5mのコンクリートスラブ5枚を使った大規模試験を実施した。スラブは張り出し式の橋の床版を模したもので、実際の補修現場と同じ条件を再現するため、補強前に意図的にひび割れを入れた。

1枚は未補強のまま対照とし、残りはUHPFRC単体またはUHPFRCとFe-SMAの組み合わせで補強した。Fe-SMAを加熱して活性化すると、既存のひび割れは閉じ、残留変形も消失した。デジタルカメラでコンクリート表面のひび割れを、棒材に埋め込んだ光ファイバーセンサーで変形を連続的に計測した。Sequeira Lemos氏は「光ファイバーの後方散乱光を解析することで、棒材がどう変形しているか正確に把握できる」と説明した。
試験の結果、従来の鉄筋補強とFe-SMA補強のいずれも、未補強スラブの耐荷重を少なくとも2倍に高めた。ただし通常の道路交通荷重のような日常的な条件下では、UHPFRCとFe-SMAの組み合わせが優位だった。橋の床版がより剛くなり、永久変形の進行を遅らせ、既存のひび割れを閉じるか、たわんだ部材をわずかに持ち上げる効果が確認された。
現時点ではFe-SMAの材料コストは高く、従来工法では対応が難しい大きな変形や損傷を受けた橋に特に適しているとチームはみている。バルコニーやフラットルーフなど、コンパクトな補強が求められる建築部位への応用も想定される。Innosuisse(スイスイノベーション庁)の助成を受け、東スイス応用科学大学、Empaスピンオフのre-fer、スイスセメント工業協会cemsuisseと共同で開発した。チームは実橋での初の実地適用に向けたパートナーを探している。

