スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)ソフトロボティクス研究室の研究チームが、人の手の形をしたロボットハンドを、指を脚にして歩かせることに成功した。歩きながら同じ指でキーボードを押し、物を押して運ぶこともできる。論文はarXivで2026年9月15日に公開された。
研究チームが想定するのは、大きなロボットの腕が入れない狭い場所での作業である。腕が手を開口部の近くに置くと、手が自分で歩いて奥のスイッチや物に近づき、操作を済ませて戻ってくる。論文は、映画『アダムス・ファミリー』に登場する、手首から先だけで動き回る「ハンド」のように指を脚として使うと説明している。車輪や脚を別に付けず、指そのものに移動を担わせる。
使ったのはWUJI製の市販のロボットハンドで、重さは738gある。1本の指に4つずつ、計20の関節を動かせる。研究チームは指の形も、ハンドに内蔵された位置制御の仕組みもそのまま残した。そのうえで手の甲に、電池、姿勢を測るセンサー、Raspberry Pi Zero 2 Wを載せた80gの部品を加え、ケーブルなしで動けるようにした。全体の重さは818gになる。
指で歩くのは、4本脚のロボットを歩かせるより難しい。脚は同じ形がそろっているのに対し、手の指は長さも動く範囲もばらばらで、特に親指は向きがまったく違う。立ったときには手のひらが斜めに傾く。1本の指を持ち上げて踏み出すたびに、残りの指で全体を支え続けなければならない。
研究チームはこれを、実機の測定値に合わせて調整したシミュレーターの中で、強化学習によって解いた。歩き方の手順は決めず、それぞれの指先を、立ったときの自然な位置へ引き戻す仕組みだけを与えた。いつ、どこへ指を踏み出すかは、学習の中でハンド自身が決める。こうした設計によって、4本脚ロボット向けの調整済みの設定より速く歩けた。
実機は、木の床やタイル、金属の格子、芝生、砂利など14種類の路面を歩いた。21回の走行の平均速度は毎秒0.093mだった。倒れても自力で起き上がり、25回中21回で元の姿勢に戻った。失敗した4回は、指どうしが引っかかって止まったものだった。
体を支えたまま手を使う試験もした。矢印キーを押す指示を続けて32回出すと、72.5秒の間に29回を正しく押した。押すまでの時間は中央値で0.25秒だった。失敗した3回は、いずれも隣のキーを押していた。倉庫番ゲームの面を、キーを物理的に押して解くこともできた。天井のカメラで位置を見ながら、一辺40mmの立方体を10〜40cm先の目標まで押して運び、最終的なずれは平均17mmだった。
研究チームは今後、手そのものにカメラを載せ、外部のカメラに頼らずに周囲を認識できるようにしたいとしている。人のために作られた空間や操作盤を、ロボットがより自由に扱えるようになると述べている。