カエデの種からヒント、32gの超軽量ドローンが26分飛行を達成 シンガポール技術デザイン大学

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シンガポール技術デザイン大学(SUTD)の研究チームが、カエデの種からヒントを得た超軽量ドローンを開発し、26分間の連続飛行を達成したと発表した。重量わずか32gのこのドローンは、プロペラ1つだけで自動制御による飛行を実現し、同じ重量クラスの従来型ドローンを大幅に上回る性能を示した。

研究を主導したフォン・シャオフイ准教授は10年前の2015年、シンガポール独立50周年を記念して50分間飛行可能なドローンの開発に挑戦した。この「SG50マルチローター・ドローン」は成功したものの、長時間飛行のために大型で複雑、重量も大きくなってしまった。今回の新開発では、その反省を活かして小型軽量化を追求した。

なぜカエデの種に注目したのか

ドローンは小型化するほど飛行効率が悪くなるという問題がある。小さなプロペラは推進力が限られるのに、相当な電力を消費してしまうためだ。研究チームは自然界に解決のヒントを求め、カエデの種の飛び方に着目した。

カエデの種は秋になると木から落ちる際、クルクルと回転しながらゆっくりと地面に降りてくる。この動きは「翼果(サマラ)」と呼ばれる果皮が翼状に発達した果実がもつ特徴で、回転することで安定した浮力を生み出している。研究チームはこの仕組みを応用し、「カエデの種のすべての部分が浮力に貢献している。何も無駄にしない機体を作る」という設計思想でドローンを開発した。

この着想は人間の観察力によるものだった。AI(人工知能)では自然界の現象からこうした発想を得ることは困難で、人間中心の観察が重要な役割を果たした。一方で、実際の設計最適化にはAIの力を活用し、効率的に最適な形状を見つけ出した。

プロペラ1つで飛ぶ仕組み

従来のドローンが複数のプロペラを制御して飛行するのに対し、この「モノコプター」はプロペラ1つだけで飛行する。1つのモーターが翼のついた機体を回転させ、大きな翼面で浮力を生み出しながら、回転による安定性を確保している。

羽ばたく部品やギアボックス、複雑な機械的連結がないため、構造は非常にシンプルだ。それでいて機械的効率は高く、1ワットあたり9.1gという優秀な電力効率を実現している。これは同サイズ・同重量の他の小型ドローンを上回る性能だ。

研究チームは古典的な空気力学理論と実際の性能モデリングを組み合わせ、データ駆動型のアルゴリズムを使用して翼の形状、角度、重量配分を細かく調整した。この最適化により、わずか32g(スニッカーズ1本より軽い)でありながら26分間の自動飛行を実現した。

現在のプロトタイプは市販部品を使用しているが、今後は専用部品の開発により性能向上を図る予定だ。研究チームは積載能力と飛行時間の向上、先進材料の採用、生物模倣翼形状の導入などを検討している。

また、シンガポール独立60周年に向けて60分間飛行可能な「SG60モノコプター」の開発も目標に掲げている。10年前のSG50クアッドコプターと比較すると、新しいモノコプターは小型、シンプル、そして電力効率が2倍以上優れている。

この研究成果は、自然からの着想と厳密な工学設計、AI技術を組み合わせることで実現した。小型航空ロボットの限界を押し広げる技術として、今後の発展が期待されている。論文は「IEEE Robotics and Automation Letters」誌に掲載された。

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