物の位置と傾きを空間の中で追う装置は、研究室が買うと5000〜1万5000ドル(約80万〜239万円)かかる。材料の上に設計図を投影し、その面をペンでなぞって操作する研究をしようにも、入口の機材で足が止まる。フィンランドのAalto大学で博士研究員を務めるKrisjanis Rijnieks氏は、部品代155ドル(約2万4700円)で作れる空間用のペン「Lighthouse Stylus」を設計し、機構と基板のデータ、ソフトウェアを公開した。
追跡に使うのは、VR機器で普及したValveのLighthouse方式だ。部屋の隅に置いた基地局が赤外線のレーザーを走査し、受け側が到達時刻から自分の位置と向きを割り出す。Tundra Trackerという受信モジュールをペンに組み込み、位置と傾きの6方向をすべて取得する。基地局を1台そろえた一式で約340ドル(約5万4100円)、範囲を広げて2台にすると約524ドル(約8万3400円)だ。
本体はPLAとTPUで3Dプリントした4部品でできている。内部には自作の基板が2枚入り、フレキシブルケーブルでつなぐ。FFF方式の3Dプリンターと基板切削機、電子工作の基本設備があるファブラボなら作れる構成だ。
精度については、リポジトリに実測値が並ぶ。基地局を2台以上使った場合、ペン先の位置のふらつきは1フレームあたり約0.2mmに収まる。長さを測るときの誤差は1mあたり1.5〜2mmだ。ただし最も効いてくるのは、時間とともにじわじわずれていく現象だ。固定した1点の座標が、1回の作業のあいだに12〜24mm動く。Rijnieks氏は、この装置は空間での操作や相対的な計測に向くのであって、絶対的な寸法を測る道具ではないと明記している。
ソフトウェアは、WindowsではSteamVR、Linuxではオープンソースのlibsurviveで動く。Pythonの中継部分が較正と通信を担い、位置と姿勢のデータをWebSocketでブラウザーのアプリケーションへ流す。
同氏が思い描くのは、材料の上に加工データを投影し、その場で位置合わせや寸法の確認をする使い方だ。画面と材料のあいだで視線を往復させずに済む。傾きも取れるため、ペンを倒して数値を変える、角度を指定するといった操作もできる。
設計データはCERN-OHL-P-2.0、ソフトウェアはMIT、文書はCC BY 4.0で公開され、オープンソースハードウェアの認証も受けた。ただし追跡の中核であるTundra Trackerと基地局は他社製品で、認証の外にある。同氏は、互換するオープンソースの追跡技術が出始めており、いずれ置き換えられるとみる。誤差の全体像は学術誌HardwareXへ投稿した論文にまとめられている。