
MITコンピューターサイエンス人工知能研究所(CSAIL)が、電子機器を使わずに静止画をアニメーション表示に変換するソフトウェア「FabObscura」を開発した。バリアグリッドアニメーション(スキャニメーション)技術を活用し、パターンシートを画像上で動かすことで動きの錯覚を生み出す。
バリアグリッドアニメーションは、格子状のオーバーレイ(バリア)を画像上で移動、回転、傾斜させることでアニメーションフレームを順次表示する仕組み。下層の画像は各静止画フレームを細かく分割して組み合わせ、バリアの位置に応じて異なるスナップショットを表示する。
従来のバリアグリッドアニメーション作成ツールは直線的なバリアパターンのみに対応していたが、FabObscuraはジグザグや円形など非従来型のデザインにも対応する。同研究所のTicha Sethapakdi氏(電気工学・コンピューターサイエンス学科博士課程)は、「このシステムは一見静的で抽象的な画像を注目を集めるアニメーションに変える」と述べている。

数学的関数による柔軟なパターン設計
FabObscuraの核心技術は、バリアパターンを任意の連続数学関数として表現できる点にある。ユーザーは関数式をテキストボックスに入力し、バリアパターンの形状と動きをグラフで確認できる。水平パターンには定数関数、波状デザインには正弦関数を使用する。システムには関数例が用意されており、ユーザーの選択を支援する。
システムは既知のあらゆる種類のバリアグリッドアニメーションに対応し、さまざまなユーザー操作を可能にする。視点に応じて表示が変化するディスプレイや、バリアをスライド・回転させてアニメーション化する表示を作成できる。
製作手順は、アニメーションフレームのフォルダーをアップロードするか、目をまばたかせるなどの事前設定シーケンスを選択し、バリアの移動角度を指定する。設計をプレビュー後、標準的な2Dプリンターでバリアと画像を透明シートに印刷できる。完成品はピクチャーフレーム、スマートフォン、本などの平面アイテムに設置可能。
研究チームは「ネストアニメーション」と呼ぶ技術も開発した。1つの表面に2つのアニメーションシーケンスを組み込み、バリアの動かし方によって異なるストーリーを表示する。例として、シートを垂直に動かすと回転する車、水平にスライドさせると回転するオートバイに変身する表現を実現した。
応用例として、指でエッジを押すことでコーヒーからマティーニ、水のシンボルに切り替わるコースターや、蓋をひねるとひまわりが咲くアニメーションを表示するひまわりの種の瓶を製作した。
グラフィックデザイナーや版画家などのアーティストは、配線なしで動的な作品を制作できる。時計の針に合わせてマウスが走るデザインや、アニメーション食品パッケージ、建設現場や店舗での再構成可能な標識への応用が期待される。
ただし、ネストアニメーションは単層スキャニメーションより視覚品質が劣るという課題がある。研究チームは設計ガイドラインを作成し、ネストアニメーションでは少ないフレーム数の使用と、鮮明な表現のための高コントラスト画像の使用を推奨している。
今後の展開として、ビデオファイルのアップロードに対応し、プログラムが最適なフレームを自動選択する機能を検討している。また3D展開も視野に入れ、3Dプリンターを使用したより複雑なオブジェクトへの実装を検討中。
研究論文は2025年1月にACMユーザーインターフェースソフトウェア技術シンポジウム(UIST)で発表予定。共著者には浙江大学博士課程学生のMingming Li氏、MITのMaxine Perroni-Scharf氏、Jiaji Li氏、Arvind Satyanarayan准教授、Justin Solomon准教授、CSAIL人間コンピュータ相互作用エンジニアリンググループリーダーのStefanie Mueller准教授が名を連ねている。
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