
米MITの研究チームが2025年10月1日、従来より200度以上高い温度に耐えられるパラジウム膜を開発したと発表した。水素燃料生成プロセスの効率化とコスト削減につながる技術として期待される。研究成果は学術誌Advanced Functional Materialsに掲載された。
多孔質材料の孔にパラジウムを充填する新構造
パラジウムは水素のみを透過させる特性を持ち、現在も半導体製造、食品加工、肥料生産など、ガス混合物から純粋な水素を分離する用途で商業利用されている。ただし、従来のパラジウム膜は約800K(約527度)を超えると劣化するため、使用温度に制限があった。
MITの機械工学科のロヒット・カルニック教授らの研究チームは、連続した薄膜としてパラジウムを形成する従来の方法ではなく、多孔質シリカ支持層の孔(直径約0.5マイクロメートル)にパラジウムを「プラグ」として充填する新しい構造を考案した。パラジウムを孔内部で成長させた後、表面を研磨して孔内部のパラジウムのみを残す製法を採用している。
この設計により、パラジウムは既に最小の表面エネルギーを持つ液滴のような形状となり、高温下でも安定性を維持する。カスタム装置を使った試験では、1000K(約727度)の温度下で100時間以上にわたり安定して水素を分離し続けることが確認された。
蒸気メタン改質やアンモニア分解への応用を想定

膜製造工程の最終段階におけるパラジウムプラグ膜(左)。点線の緑色が膜の輪郭を示す。走査型電子顕微鏡画像では、シリカ支持体の細孔内に埋め込まれたパラジウムプラグが確認できる(右)。画像出典元: MIT News
新しい膜は、蒸気メタン改質やアンモニア分解といった高温で作動する水素生成技術への応用が期待される。
蒸気メタン改質は、メタンガスから水素を生成する確立されたプロセスだが、現在は複雑でエネルギー集約的な前処理システムが必要となっている。新しい膜を組み込んだコンパクトな「膜反応器」を使えば、メタンガスを直接流し込み、内部の膜で純粋な水素を濾過できる。これにより、水素生成システムのサイズ、複雑さ、コストを大幅に削減できる可能性がある。
アンモニア分解は、アンモニアを分解して水素を生成する方法だ。アンモニアは液体状態で安定しているため、水素のキャリアとして輸送し、水素燃料ステーションで膜反応器を通して水素を取り出し、燃料電池車に直接供給するといった利用が想定されている。アンモニア分解反応器は約800Kで作動すると見られており、新しい膜の動作範囲内に収まる。
この研究は、MITエネルギーイニシアチブ(MITEI)の核融合エネルギー関連プロジェクトから生まれた。将来の核融合発電所では、重水素と三重水素を極高温で循環させてエネルギーを生み出すが、反応によって生成される他のガスを分離し、水素同位体を主反応炉に再循環させる必要がある。従来はガスを冷却してから膜を通す必要があったが、新しい膜を使えば反応炉の近くで高温のまま分離できるため、エネルギー効率とコンパクト性が向上する。
カルニック教授は、実用化には更なる開発と長期的な信頼性試験が必要だとしながらも、「薄膜ではなく離散的なナノ構造を作ることで、熱的に安定した膜が得られることを示した。高価なパラジウムの使用量を減らしながら、水素生成をより効率的で手頃な価格にする道筋を提供する可能性がある」と述べている。
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MIT News – Palladium filters could enable cheaper, more efficient generation of hydrogen fuel