
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、物理的な形状を変化させることで周波数範囲を動的に調整できる再構成可能アンテナを開発した。従来の固定式アンテナと比較して、通信や感知において高い汎用性を持つ技術だ。
メタマテリアルによる形状制御
開発された「メタアンテナ」は、ユーザーが引き伸ばし、曲げ、圧縮することで放射特性を可逆的に変化させることができる。これにより、複雑な可動部品を必要とせずに、より広い周波数範囲での動作が可能になるという。
研究チームは従来の金属棒型アンテナではなく、メタマテリアルと呼ばれる工学材料を使用した。メタマテリアルは、構成要素の幾何学的配置によって硬度や強度といった機械的特性が決まる人工材料だ。
機械工学大学院生で筆頭著者のMarwa AlAlawi氏によると、通常のアンテナは特定の特性を持つように製造された静的な構造として考えられている。しかし、3つの異なる幾何学的状態に変形可能なオーセティックメタマテリアルを使用することで、新しい構造を製造することなく、幾何学的形状を変えるだけでアンテナの特性をシームレスに変更できるという。

共振周波数の変化を活用した感知機能
研究チームはアンテナを単なる電波の送受信装置ではなく、センサーとしても活用する方法に着目した。アンテナが最も効率的に動作する共振周波数は、形状の変化によってシフトする特性を利用している。
例えば、人の胸部の膨張を検出して呼吸をモニタリングしたり、拡張現実でのモーションキングや感知、ウェアラブルデバイスでのエネルギー転送といった用途への応用が期待される。
メタアンテナは、2つの導電層に挟まれた誘電体材料層で構成されている。製造プロセスでは、レーザーカッターでゴムシートから誘電体を切り出し、導電性スプレー塗料でパッチを追加して「パッチアンテナ」を形成する。
研究過程では、最も柔軟な導電性材料でもアンテナが受ける変形に耐えられないことが判明。柔軟なアクリル塗料でコーティングすることで、ヒンジ部分の早期破損を防ぐ解決策を見出した。
設計ツールで個別カスタマイズに対応
研究チームは、ユーザーが特定用途向けのメタマテリアルアンテナを設計・製造できるツールも開発した。アンテナパッチのサイズ、誘電体層の厚さ、メタマテリアル単位セルの長さと幅の比率を設定すると、システムが自動的にアンテナの共振周波数範囲をシミュレートする。
実証実験では、メタアンテナを組み込んだスマートデバイスを複数製作。家庭の照明を動的に調整するカーテンや、ノイズキャンセリングモードと透明モードをシームレスに切り替えるヘッドフォンなどを開発した。
スマートヘッドフォンの例では、メタアンテナが拡張・屈曲することで共振周波数が2.6%シフトし、ヘッドフォンのモードが切り替わる。耐久性テストでは、メタアンテナ構造が1万回以上の圧縮に耐えることも確認された。

アンテナパッチは任意の表面にパターン化できるため、より複雑な構造での使用も可能。非侵襲的な生体医学感知や温度監視を行うスマートテキスタイルへの組み込みなどが考えられている。
今後の研究では、より広範囲の用途に対応する3次元メタアンテナの設計、設計ツールへの機能追加、メタマテリアル構造の耐久性と柔軟性の向上、さまざまな対称メタマテリアルパターンの実験などに取り組む予定だ。
この研究成果は、ACMユーザーインターフェースソフトウェア・技術シンポジウムで発表される。
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A shape-changing antenna for more versatile sensing and communication