
オーストラリア出身の数学者でコメディアンのMatt Parker氏が、人類史上初となる月面での円周率(π)計算プロジェクト「Moon Pi」をKickstarterで展開している。目標金額15万ドル(約1466万円)に対し、記事執筆時点で4000万円以上の支援を集めている。
Matt Parkerは「数千年にわたって人類は地球上で円周率を計算してきた。今、私たちは歴史上初めて異なる天体で円周率を計算するチャンスを得た」と述べている。Parkerは数学の普及活動で知られ、YouTube「Stand-up Maths」チャンネルは100万人以上の登録者を持つ。また、人の手で計算した円周率の桁数で世界記録(139桁)を保持している。
プロジェクトはアメリカ・ピッツバーグの航空宇宙企業AstroboticのGriffin Mission Oneミッションに参加し、月の南極のNobile地域に着陸予定のCubeRover-1にParkerのコードが搭載される。このローバーはアポロ計画の月着陸船以来最大の月面着陸機となる。
計算手法は、CubeRover-1のセンサーを使って月面環境をサンプリングし、そのデータを乱数源として確率的手法で円周率を計算する仕組みだ。ローバーが科学調査で忙しくない時間に「LOOP(Lunar Observation Of Pi)」と呼ばれる計算セッションが実行され、月面のランダムサンプルから新たな円周率の値を算出する。
コード開発についてParkerは「プロジェクトの制約により、私と兄の2人のプログラマーのみがモジュール開発を許可された。支援者が参加したがっていることは分かっているが、テストされていないコードを月面ローバーで動作させるわけにはいかない」と説明している。
支援者は「月面からのメッセージ」を受信

支援者への特典は4段階に分かれている。最も手頃な「Flight Support Crew」(11ポンド、約2200円)では名前が月面ローバーに搭載され、デジタル証明書を受け取れる。支援者は32文字以内で任意の名前を選択でき、不適切とみなされた場合はParkerが変更を求める可能性がある。
「Mathstronaut」(111ポンド、約2万2000円)では優先的にLOOPが実行され、個人専用の月面計算による円周率の値とともに「月面からのメッセージ」を受信できる。さらにMatt Parker直筆サイン入りの物理的な証明書とミッションパッチも郵送される。
「Co-PI Mathstronaut」(232ポンド、約4万5000円)では5倍の特典を受けられ、最上位の「Commander Mathstronaut」(2315ポンド、約45万円)では100倍の特典が含まれる。未使用の名前枠は、手計算で円周率を求めた学校の生徒に無料で提供される。
プロジェクトには宇宙探査固有のリスクも存在する。前回の同等ミッション「Peregrine Mission One」は打ち上げ後の推進剤漏れにより月面着陸を断念した経緯がある。Parkerは「宇宙探査は予測不可能で費用も高額だが、災害が発生した場合はできる限り対応する」と説明している。
現在プロジェクトは目標金額を大幅に上回る支援を集めている。