
NASAが2025年5月から6月にかけて、将来の空飛ぶタクシーに使用される特殊な翼の風洞実験を実施した。この翼は「チルトウィング」と呼ばれる設計で、翼とプロペラが垂直から水平に回転することで、ヘリコプターのように離着陸し、飛行機のように高速飛行することができる。700個以上のセンサーを取り付けた7フィート(約2.1m)の翼模型を使用し、安全で効率的な都市航空交通の実現に向けたデータを収集した。
実験はバージニア州ハンプトンのNASAラングレー研究センターにある14×22フィート亜音速風洞で行われた。この研究は、電動エアタクシーや自動貨物ドローンなど、次世代航空機の開発を支援するNASAの先進航空移動ミッション(Advanced Air Mobility)の一環として実施されている。
従来の航空機は、ヘリコプターか飛行機のどちらか一方の特徴しか持たない。ヘリコプターは垂直離着陸ができるが速度が遅く、飛行機は高速飛行できるが長い滑走路が必要だ。都市部でタクシーのように使える航空機には、両方の長所が求められる。
チルトウィング機は、この問題を解決する画期的な設計だ。離陸時は翼とプロペラを上向きにしてヘリコプターのように浮上し、空中で翼を前方に回転させて飛行機のように効率的に飛行する。着陸時は再び翼を上向きに戻してヘリコプターのように降りることができる。
この技術により、ビルの屋上や小さなヘリポートから離着陸しながら、従来のヘリコプターよりもはるかに静かで効率的な移動が可能になる。複数の企業がこの設計に取り組んでおり、将来の都市交通の主役になると期待されている。
詳細な実験で安全性を確保
今回の実験では、翼の右半分を再現した「セミスパン」模型を使用した。この模型は風洞内の回転台に設置され、研究者は翼の傾斜角度、フラップの位置、回転速度を変更しながらデータを収集した。風洞の風速調整や、複数のプロペラの位置変更も行われた。
実験の目的は、複数のプロペラと翼がさまざまな速度や条件下でどのように相互作用するかを理解することだ。この情報は、航空業界の機体設計改善と、将来の設計の安全性評価に使用される解析ツールの向上に役立つ。
特に重要なのは、巡航飛行、ホバリング(空中停止)、そして垂直飛行から水平飛行への移行という3つの飛行段階でのデータ収集だ。この移行段階は最も技術的に困難で、安全性の確保が重要となる。
風洞実験により、実際の飛行テストを行う前に潜在的な問題を発見し、より安全で効率的な機体設計が可能になる。また、シミュレーション技術の精度向上にも貢献し、設計期間の短縮と開発コストの削減も期待されている。
NASAは収集したデータの分析完了後、すべての情報を業界に無償で公開する予定だ。これにより、チルトウィング機を開発している複数の企業だけでなく、エアタクシーや貨物ドローンを開発するすべての企業が恩恵を受けることができる。
この研究は、NASAの革新的垂直離着陸技術プロジェクトの一部として、先進航空機プログラムの下で管理されている。急速に成長する先進航空移動産業を支援するNASAの取り組みの一環として位置づけられている。
空飛ぶタクシーの実用化により、都市部の交通渋滞緩和、救急医療での迅速な患者搬送、災害時の人員・物資輸送など、様々な分野での活用が期待されている。NASAの今回の研究は、この未来の交通手段をより安全で実用的なものにするための重要な基礎データを提供することになる。