
中国・鄭州大学のChenkai Sun教授らの研究チームが、有機太陽電池(OSC)の製造コストを従来の5分の1から6分の1に削減しながら、低コスト有機材料として最高となる19.96%の変換効率を実現した。研究成果は学術誌「SCIENCE CHINA Chemistry」に掲載された。
有機太陽電池は、シリコン系太陽電池と比較して軽量で柔軟性があり、塗布による低温プロセスで製造できるという利点を持つ。しかし、高性能な有機太陽電池に使用される光電変換材料は非常に高価で、商業化の大きな障壁となっていた。
従来材料の5分の1のコストを実現
研究チームが開発した新しいポリマー材料「PTQ14」と「PTQ15」は、トリフルオロメチル(CF3)基を組み込むことで高い性能を維持しながら、製造コストの大幅な削減に成功した。
特に「PTQ15」の製造コストは1kgあたり35,528ドルで、現在市場で主流となっている高性能ポリマー「PM6」(205,725ドル/kg)や「D18」(211,432ドル/kg)と比較して、5分の1から6分の1という低コストを実現した。
この劇的なコスト削減は、合成プロセスの簡素化により達成された。従来の高性能ポリマーが複雑な多段階合成を必要とするのに対し、PTQ15は3〜4ステップという簡潔なプロセスで製造でき、さらに80%を超える高い収率を示した。
大気中での製造が可能に
PTQ15を使用した有機太陽電池は、アクセプター材料K1/K6と組み合わせることで19.96%という高い変換効率を達成した。これは低コスト有機材料を使用した太陽電池として最高の記録となる。
さらに重要な点は、相対湿度25%の大気中で製造した場合でも19.37%という高い効率を維持したことだ。従来の有機太陽電池の多くは、厳格に管理された環境下での製造を必要とするため、この特性は大規模な工業生産への道を開く重要な成果といえる。
研究チームの分析によると、PTQ15ベースの三元系有機太陽電池は1.40ピコ秒という超高速の電荷移動を実現し、非放射エネルギー損失も0.190eVと極めて小さい値を示した。これらの優れた材料特性が、高い変換効率の実現に寄与している。
実用化に向けた展望
研究チームは、PTQ15を使用した有機太陽電池の最小持続可能価格を1ワットあたり0.36ドルと試算している。これは有機太陽電池として報告された中で最も低い価格であり、既存のシリコン系太陽電池とも競争可能な水準に近づいている。
今回の研究には、鄭州大学のほか、中国科学院化学研究所、武漢大学の研究者らが参加した。研究は中国国家自然科学基金および河南省自然科学基金の支援を受けた。
研究チームは今後、ドナー材料の最適化、アクセプター材料とのマッチング改善、薄膜形態の制御などにより、変換効率20%超えを目指すとしている。低コスト、高効率、高安定性、大気中での製造可能性を兼ね備えたPTQ15の開発は、有機太陽電池の実験室から市場への移行を加速させる可能性がある。
関連情報