
米国の核融合スタートアップPacific Fusionは2026年2月5日、サンディア国立研究所のZ装置を使った実験で、核融合炉の製造コストを大幅に削減できる新しいターゲット設計の実証に成功したと発表した。プラスチックとアルミニウムだけで作る簡素なターゲットが、従来必要とされていた高価な外部磁気コイルの役割を果たすことを確認した。
核融合発電は、太陽と同じ原理でエネルギーを生み出す次世代の発電方法だ。燃料となる水素は海水から豊富に取れ、二酸化炭素も出さないため、究極のクリーンエネルギーとして期待されている。しかし、実用化には高温高圧の環境で核融合反応を起こし続ける必要があり、そのための装置が複雑で高価になることが課題だった。
Pacific Fusionが採用する「パルスパワー慣性核融合」方式では、小さなカプセル状のターゲット(標的)に大電流を流して圧縮し、核融合反応を起こす。この方式では、効率を上げるために燃料を事前に温めておく「予磁化」という処理が重要だが、従来は外部の磁気コイルを使う必要があり、装置が複雑化していた。
今回の実験では、世界最強のパルスパワー装置であるサンディア国立研究所のZ装置を使い、2200万アンペアの電流を120ナノ秒(1億2000万分の1秒)という超高速で流した。これは人間のまばたきの約100万倍速い速度だ。
ターゲットはプラスチックをアルミニウムで包んだだけのシンプルな構造で、このアルミニウムの層の厚さを調整することで、磁場がターゲット内部に「漏れ込む」ようにした。この漏れ込んだ磁場が燃料を予磁化し、熱を閉じ込めやすくする。ターゲット内部に埋め込んだ磁気センサーで、磁場が設計通りに移動していることを確認した。
実験は4回実施され、アルミニウム層の厚さを変えた2種類のターゲットで試験した。その結果、薄いアルミニウム層の方が磁場をより速く、より強くターゲット内部に入れられることが分かり、性能調整の新たな手がかりを得た。
Pacific Fusionは2023年に創業し、商用核融合発電の実現を目指している。今回の成果は、同社がニューメキシコ州で建設予定の実証システムの設計に直接反映される。同社は2030年までに「ネット施設ゲイン」(システムに蓄えられたエネルギーよりも多くの核融合エネルギーを生み出す)の達成を目指しており、これが2030年代半ばまでに米国で商用核融合発電を実現する鍵になると考えている。
核融合発電の実用化競争は世界中で激化している。2022年には、米国のローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)がレーザー方式で初めて「点火」(投入エネルギーを上回るエネルギー出力)を達成した。しかし、NIFのような複雑で高精度な装置は商用化に向けたコストや運用面で課題が多い。
Pacific Fusionの方式は、レーザーではなくパルスパワーと磁場を使う点が特徴で、高い繰り返し頻度での運転を狙っている。今回の簡素化により、ターゲット交換のコストと複雑さが大幅に削減できる見通しで、商用発電への道筋がより現実的になった。
同社は今後、アルミニウム以外の金属導体やセラミックなどの絶縁材料を試し、さらなる性能向上を図る計画だ。最終的には、外部からのレーザー予熱も不要にすることを目指している。
関連情報
Pacific Fusion Reports Results From Experiments Conducted at Sandia’s Z Pulsed Power Facility

