250年かけて宇宙の旅、恒星間旅行船のデザインコンテストでイタリアチームが優勝

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人類が他の恒星系へ旅立つための宇宙船「Generation Ship(世代船)」のデザインコンテスト「PROJECT HYPERION」の結果が2025年7月23日に発表され、イタリアの研究チーム「Chrysalis」が優勝した。この宇宙船は250年間の長期航海で500~1500人の乗員が生活し、子孫を残しながら最終的に他の星の惑星に到達することを想定している。賞金総額1万ドルのコンテストには世界中から数百のアイデアが寄せられた。

このコンテストは英国の非営利団体「恒星間研究イニシアチブ(i4is)」が主催し、建築設計者、エンジニア、社会科学者から成る学際的チームが参加した。参加者は現在の技術と近未来に実現可能な技術のみを使用して、数世紀にわたる宇宙旅行を可能にする宇宙船の設計に挑戦した。

最も近い恒星系であるアルファ・ケンタウリ系までの距離は約4.3光年で、現在の技術では数万年かかる計算になる。将来的に光速の10%程度まで加速できる推進システムが開発されても、片道で数十年から数百年の旅になると予想される。

このような長期間の旅では、最初に出発した乗組員が目的地に到着することはできない。そのため「世代船」というコンセプトが生まれた。世代船とは、乗組員が船内で生活し、子供を育て、亡くなり、その子孫が旅を続けるように設計された宇宙船のことだ。

世代船には農業、居住施設、その他の生命維持システムを備えた自給自足の生態系が必要になる。また、何世代にもわたって機能する社会システムや統治機構も設計しなければならない。参加チームは、この複雑な課題に建築、工学、社会科学の観点から取り組んだ。

優勝作品「Chrysalis」の特徴

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Chrysalisのプレゼンテーション資料画像出典元コンテスト公式サイト

優勝したイタリアチームの「Chrysalis」は、全長約58km(36マイル)の巨大な宇宙船として設計された。船内には図書館、熱帯林、製造施設などが配置され、人工重力によって居住環境が維持される。最大2400人を収容でき、モジュール式の居住構造による革新的な設計が評価された。

審査員は「システム全体の一貫性とモジュール式居住構造の革新的設計」「全体的な詳細の深さ」を評価理由として挙げた。この設計では、回転による人工重力で地球に近い環境を作り出し、居住モジュールの配置により効率的な空間利用を実現している。

2位には「WFP Extreme」(ポーランド)、3位には「Systema Stellare Proximum」(マレーシア)が選ばれた。また、多くの作品が佳作として表彰されている。

宇宙旅行の現実的課題

コンテストでは、宇宙旅行特有の困難な課題への対応も求められた。長期間の密閉空間での生活、放射線被曝、必要物資の確保、乗組員間の人間関係など、数多くの問題を解決する必要がある。

特に重要なのは、250年という超長期間にわたって機能する社会システムの構築だ。地球との連絡が取れない環境で、世代を超えて組織や文化をどう維持するか、資源をどう管理するか、紛争をどう解決するかといった問題は、技術的課題と同じかそれ以上に重要になる。

参加チームは、これらの課題に対して教育システム、統治機構、経済システム、文化的活動などの具体的な提案を行った。また、心理的健康の維持、世代間の知識継承、緊急事態への対応なども設計に組み込まれた。

未来への第一歩

PROJECT HYPERIONは2011年にドイツ・ミュンヘン工科大学の学生グループから始まったプロジェクトで、現在はNASA、欧州宇宙機関(ESA)、MITなどとも連携している。今回のコンテストは、恒星間旅行の実現可能性を評価し、将来の研究開発計画を指導することを目的としている。

現時点では恒星間旅行は理論上の話だが、このような詳細な研究により、将来実現する可能性のある技術的・社会的課題が明らかになる。また、宇宙での長期滞在に関する知見は、月や火星での基地建設、軌道上の宇宙コロニー建設にも応用できる。

人類の宇宙進出がさらに進歩すれば、いつかは太陽系を離れる日が来るかもしれない。その時のために、今から準備を始めることの意義を、このコンテストは示している。

関連情報

Project Hyperion公式サイト

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