韓国の釜山大学校を中心とする研究チームが、印刷する速度と温度を変えるだけで、加熱したときに伸びるか縮むかが逆転する3Dプリント材料を開発した。ノズルもインクも1種類のまま、同じ1本の押し出し線の途中で挙動を切り替えられる。速度と温度の組み合わせによって、加熱時の変形は28%の伸びから31%の縮みまで連続的に振れた。
熱で形が変わる材料としては液晶エラストマーが知られている。棒状の分子を含む柔らかい網目で、分子の並びが加熱で乱れると、並んでいた方向に縮み、直交する方向へ広がる。ノズルから材料を押し出して描く3Dプリンターと相性がよく、押し出す際のせん断で分子の向きがそろい、その状態のまま紫外線で固めれば向きを固定できる。
ただし従来のインクでは、分子は必ず印刷の進行方向にそろってしまう。速度や圧力を変えてもそろい方の強弱が変わるだけで、向き自体は動かない。結果として、印刷された線が加熱でできる動きは「進行方向に縮む」1種類に限られていた。伸びと縮みを同じ部品に混ぜたい場合は、材料を替えるか、別の層を貼り合わせるしかなかった。
研究チームが使ったのは、分子が層をなして並ぶスメクチック相の液晶インクだ。層構造は、押し出す条件によって残ったり壊れたりする。せん断が弱いときは層が保たれ、層は流れに沿って寝る一方で、分子は流れと直角を向く。せん断や温度が上がって層が崩れると、分子は流れに沿って向き直る。分子の向きが直角なら加熱で伸び、平行なら縮む。X線散乱の測定と分子動力学の計算で、この反転が層の保持と崩壊によることを確かめた。
実験では内径0.4mmのノズルを使い、ノズル温度を35〜45℃、移動速度を毎秒2〜20mmの範囲で振った。同じ材料から、加熱時に28%伸びる線と31%縮む線の両方が得られる。層が崩れ始める境目のせん断速度は毎秒50〜75だった。同じ同心円の経路をたどりながら途中で条件を変えると、鞍のように反り返る変形と、円錐状に立ち上がる変形を1つの部品で作り分けられる。10〜100℃の加熱と冷却を100回繰り返しても、変形量の変化は1%程度にとどまった。
責任著者のSuk-kyun Ahn氏は、1種類のインクだけで直交する2方向の間に分子の向きを切り替えて見せたのは初めてだとしている。想定する用途として、ソフトロボットの駆動部や人工筋肉、触覚ディスプレイ用の可変表面、空気抵抗を調節する表面の凹凸を挙げる。ただし今回試したのは実験室での1種類の配合にとどまり、他の材料への展開や量産への適用には追加の研究が要る。研究には米オークリッジ国立研究所と米メリーランド大学が参加した。成果は2026年7月10日、学術誌Nature Communicationsに掲載された。