
米ワシントン州のGroup14 Technologiesが2025年6月25日、同社のシリコン電池材料「SCC55」を使用した電池で3000回を超える充放電サイクルを達成したと発表した。従来のリチウムイオン電池の目標値である1000サイクルを大幅に上回る性能で、電気自動車や電動航空機、AIデータセンター向けエネルギー貯蔵システムの普及に大きく貢献する見込みだ。
同社のRick Luebbe最高経営責任者は「データは明確で、シリコン電池は重要な閾値を越え、1500サイクルが新たな1000サイクルとなった」とコメントしている。20社を超える顧客企業からのデータによると、SCC55を使用したシリコン電池は幅広い用途で1500サイクルを超える性能を一貫して達成し、一部のケースでは3000サイクルを超えているという。
「SCC55」は、シリコンとカーボンを組み合わせた複合材料で、従来のグラファイト電極と比較して最大5倍の容量と最大50%高いエネルギー密度を提供する。Group14独自の「Scaffold Prime」と呼ばれる2段階プロセスで製造され、シリコンを理想的な形態であるアモルファス(非結晶)とナノサイズで維持する独特なハードカーボンベース足場構造を持つ。
1500サイクルが新たな業界標準に
シリコン電池業界では長年にわたり、高性能リチウムイオン電池の基準である1000充放電サイクルの達成が目標とされてきた。しかし、今回の発表により、シリコン電池はサイクル寿命の短さという従来の課題を克服し、充電可能電池の新たな標準となった。
SCC55は、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)、高ニッケル化学など、さまざまな電池フォーマットと互換性がある。同社によると、この材料はすでに世界中で数百万台の製品に電力を供給しており、電気自動車、AI対応デバイス、電動垂直離着陸機(eVTOL)、グリッドアプリケーションなど幅広い分野で画期的な性能を提供しているという。
このレベルの性能は、特に電気自動車、電動垂直離着陸機、AIデータセンターのエネルギー貯蔵システムなど、電池が主要コンポーネントとなる分野で、総所有コストに大きな影響を与える。電池の寿命が3倍に延びることで、電気自動車の買い替えサイクルの延長や、データセンターでの電池交換頻度の削減などが期待される。
ドロップイン対応で既存製造ラインに導入可能
SCC55は、既存の電池製造ラインでグラファイトと混合または完全に置き換えることができるドロップイン対応ソリューションとして最適化されている。この特徴により、電池メーカーは既存の製造設備を大幅に変更することなく、シリコン電池の性能向上を実現できる。
同社はワシントン州ウッディンビルのBAM(Battery Active Materials)工場で「Scaffold Prime」プロセスを使用してSCC55を製造している。この工場では材料の迅速なスケールアップが可能で、電池やそれらの電池で動作するデバイスの長寿命化と高速充電を可能にしている。
高エネルギー密度と高速充電という従来のシリコン電池の主要な利点を維持しながら、サイクル寿命の大幅な向上を達成したことで、電気自動車時代の到来を加速し、コンシューマーエレクトロニクス、グリッドストレージ、航空宇宙、その他のモビリティ分野での技術向上にも貢献する見込みだ。