ガラス1枚に360TBのデータを保存、寿命は「宇宙の年齢」と同じ138億年というガラスディスクが英国で開発される

FabScene(ファブシーン)

DVDと同じサイズのガラスディスク1枚に、一般的なハードディスク180台分に相当する360TBのデータを格納できる。しかも保存期間は138億年——宇宙が誕生してから現在までの時間と同じだ。英サウサンプトン大学発のスタートアップSPhotonixが、この「5D Memory Crystal」技術の商用化に向けて450万ドル(約7億円)を調達した。電力を使わずにデータを保持でき、大量のデータを長期保存するデータセンターへの導入を目指す。

SPhotonixは2024年に設立されたディープテック企業だ。サウサンプトン大学のPeter Kazansky教授が約20年にわたり研究してきた5D光学ストレージ技術を商用化する。

5D Memory Crystalは、フェムト秒レーザーを使って溶融シリカガラス内にナノスケールの構造(ボクセル)を形成し、データを記録する。ボクセルの3次元座標(x、y、z)に加え、偏光特性(方向と強度)を利用することで5次元のデータ空間を実現した。5インチのガラスディスク1枚に最大360TBを格納できる。

石英ガラスは光ファイバーと同様の素材で、磁気や電子ストレージと比較して圧倒的に安定している。同社は190℃の環境下でも138億年(宇宙の推定年齢に相当)データを保持できると推定している。

2025年11月、SPhotonixはCreator FundとXTX Venturesが主導するプレシードラウンドで450万ドルを調達したと発表した。この資金で技術成熟度レベル(TRL)5から6への移行を進め、英国とスイスの研究施設でチームを拡大する。

英国メディア「The Register」の取材によると、同社は現在、複数のハイパースケーラーとデータセンターでのパイロット導入について協議中だ。現時点でのプロトタイプは書込速度約4MBps、読込速度約30MBpsだが、3〜4年以内に500MBpsを達成し、アーカイブ用テープバックアップシステムと競合できる水準を目指すという。初期段階でのライターの価格は約3万ドル(約470万円)、リーダーは約6000ドル(約93万円)と見込まれている。

5D Memory Crystalは、10秒以上のレイテンシが許容されるコールドストレージ用途を想定している。同社によると、世界で保存されているデータの60〜80%はコールドデータに分類されるという。

SPhotonixはすでにヒトゲノム全体や、ゲーム「Heroes of Might & Magic 3」のアーカイブを5D Memory Crystalに保存するデモを実施している。映画「Mission: Impossible – The Final Reckoning」にも同技術が登場した。


関連情報

SPhotonix Raises $4.5M to Scale 5D Optical Data Storage and Advanced Optics(SPhotonix)

The future of long-term data storage is clear and will last 14 billion years(The Register)

fabsceneの更新情報はXで配信中です

この記事の感想・意見をSNSで共有しよう
  • URLをコピーしました!