
フレキシブルエレクトロニクスの次世代デバイスとして期待される有機薄膜トランジスタ(OTFT)。その金属と半導体の界面に生じる「エネルギー障壁」は、従来は除去すべき欠点と考えられてきた。しかし英サリー大学とオーストリアのJOANNEUM RESEARCHの研究チームは、適度な障壁がむしろ動作の安定性を高めることを発見した。
有機薄膜トランジスタ(OTFT)は、軽量で低コスト、大面積に印刷できることから、フレキシブルディスプレイやウェアラブルデバイスへの応用が期待されている。しかし、長期的な動作安定性が課題だった。
従来、エンジニアは金属電極と有機半導体の界面に生じるエネルギー障壁(コンタクトバリア)を除去しようとしてきた。この障壁が電流の流れを妨げ、性能を低下させると考えられていたからだ。
Radu Sporea准教授らの研究チームは、この常識を覆した。小さく制御されたエネルギー障壁を残すことで、トランジスタの動作がより安定することを実証したのだ。
研究チームは、プリンテッドエレクトロニクスで一般的な銀をコンタクト材料として使用し、フレキシブルトランジスタを製作した。その結果、デバイス間の電流均一性が向上し、−4V以下の低電圧でも安定した性能を維持した。低消費電力のウェアラブル用途に適している。
安定性向上のメカニズムを解明するため、2つのゲート電極を持つ新しい「マルチモーダルトランジスタ」(MMT)設計を用いた。この構造では、電流の注入と流れを別々に制御できる。コンピューターシミュレーションにより、適度なコンタクト障壁があると、電流の流れがチャネルではなく半導体/コンタクト界面で主に制御される「コンタクト制御モード」で動作することが確認された。これにより、トラップ電荷などによる経年劣化の影響を受けにくくなる。
Eva Bestelink研究員は「素材の自然な特性に逆らうのではなく、それを活かすことで、フレキシブルエレクトロニクスをより堅牢で持続可能、そして製造しやすくできる」と述べている。
この研究成果はIEEE International Electron Devices Meeting(IEDM)2025で発表される。将来的には、次世代OLEDやマイクロLEDディスプレイの画素回路の簡素化、製造コスト削減、エネルギー効率向上への応用が期待される。

