英シェフィールド大学は、約1600年前のローマ時代のガラス器「リュクルゴスの杯」が持つ、光の当て方で色が変わる効果をガラスの配合で再現したと2026年10月26日に発表した。手がけたのは同大学化学・材料・生物工学部の技術職員Lisa Hollands博士で、ガラスに25年以上携わってきた。
大英博物館が所蔵する4世紀のこの杯は、反射した光では翡翠のような緑、透過した光ではルビーのような赤に見えるガラスでできている。同時代のガラスの「ケージカップ」は40点が残るが、この効果を持つのは1点だけで、2022年には国際的な審査で「ガラスの七不思議」の一つに選ばれた。研究者は、ローマ人がごく少量の金と銀で層状のナノ粒子を作り、この効果を生んだと考えている。同大学によると、効果を安定して再現できる配合は長く見つかっていなかった。
きっかけは光を使って太陽エネルギーや量子技術、医療診断向けの新材料を設計する研究プロジェクト「Molecular Photonic Breadboards」だ。同大学と英ブリストル大学が進め、英国の研究会議EPSRCが資金を出している。プロジェクトマネジャーのChristina Metcalfe氏が、2025年の関連イベント「LightFest」に向けて再現をHollands博士に持ちかけた。
Hollands博士はローマ時代のガラスの専門家Caroline Jackson教授と当時のガラスを調べ、ローマ人が使ったとみられるガラスに近い母材を現代の材料で作った。難しかったのは、少量の金と銀を適した形でガラスに含ませる工程だった。同博士は炉の種類や原料、酸素の量を変えて実験を重ね、砂糖を加えることも試した。その結果、反射光では不透明な緑、透過光では赤に見える配合にたどり着いた。同大学は配合の組成や金と銀の量を公表していない。
この配合と同大学の工房で溶かしたガラスを使い、Netflixの番組『Blown Away』シーズン2の優勝者で、ガラス作家のElliot Walker氏が彫刻を制作した。杯の物語に彫刻「ファルネーゼのアトラス」を重ね、アトラスが担ぐ球を杯に置き換えた作品だ。2026年11月6〜15日に同大学の催し「Festival of the Mind」でシェフィールドのMillennium Galleryに展示し、その後は同学部のTurner Museum of Glassで常設展示する。同大学は今回の知見が新しい光学材料や、放射性廃棄物の処理に使う高度なガラスの研究に役立つ可能性があるとしている。