
東京大学大学院理学系研究科の戸谷友則教授は2025年11月26日、宇宙に存在するとされながら約100年間正体不明だった「暗黒物質」からの光を初めて捉えた可能性があると発表した。米国の観測衛星が15年間かけて集めたデータを解析し、天の川銀河の中心方向から理論予測と一致する特徴的な光(ガンマ線)を検出した。確定すれば、天文学と物理学における最大級の発見となる。
「見えない物質」が放つ光を探し続けて
暗黒物質は、星や惑星のように光を出さないが、重力を通じて存在が確認されている謎の物質だ。1930年代から存在が指摘され、宇宙全体では目に見える星や銀河の約5倍もの量があるとされる。私たちの住む天の川銀河も、巨大な暗黒物質の球(ハロー)に包まれていると考えられている。
暗黒物質の正体として最も有力視されているのが「WIMP」と呼ばれる未発見の素粒子だ。理論上、2つのWIMP粒子がぶつかると消滅し、その際に高エネルギーの光(ガンマ線)を放つと予測されている。研究者たちは長年、暗黒物質が密集している天の川銀河の中心方向からこのガンマ線を検出しようと試みてきた。
研究では、2008年に打ち上げられたフェルミガンマ線観測衛星の15年分のデータを使用した。宇宙には様々な天体からガンマ線が飛び交っているため、それらを丁寧に取り除いた上で、暗黒物質由来と思われる微弱な成分を探した。その結果、天の川銀河の中心に向かってぼんやりと球状に広がる光が見つかった。
理論予測と一致、ただし検証はこれから
検出された光には、暗黒物質からの放射を示唆する特徴があった。通常の天体が出すガンマ線は様々なエネルギーで比較的均等に放射されるが、今回見つかった光は特定のエネルギー帯(約20ギガ電子ボルト)に集中していた。これはWIMPの消滅から予測される特徴とよく一致する。
もしこれが本当に暗黒物質からの光であれば、約100年続いた「暗黒物質とは何か」という問いに答えが出ることになる。同時に、現在の物理学では説明できない新しい素粒子の発見にもつながる。
ただし、研究者自身も慎重な姿勢を崩していない。最終的な確定には、他の研究グループによる独立した検証や、天の川銀河以外の領域での同様の観測が必要となる。研究成果は2025年11月25日付で学術誌「Journal of Cosmology and Astroparticle Physics」に掲載された。

