地下に水を流すだけで水素を取り出す新技術、カナダで世界初の実証試験

FabScene(ファブシーン)

米国のVema Hydrogenは2026年2月3日、カナダ・ケベック州で、地下の岩石から水素を取り出す世界初の実証試験用井戸2本の掘削を完了したと発表した。地下の鉄分を含む岩石に水を注入すると、自然の化学反応で水素が発生する仕組みを利用したもので、製造コストは1kgあたり1ドル(約150円)未満を目指す。これは従来の製造方法の半額以下にあたる。将来的には、水素供給コストの大幅な低減によって、燃料電池プロジェクトや水素関連の実験が個人レベルでも手軽になる可能性がある。

この技術は「エンジニアード・ミネラル水素(Engineered Mineral Hydrogen, EMH)」と呼ばれる。地下深くに眠る特定の岩石に水を送り込むと、岩石に含まれる鉄分が水と反応して水素が発生する。地球内部で自然に起きている反応を人工的に促進させる仕組みだ。

今回のプロジェクトは、数年にわたる実験室研究を、実際の地下環境で検証する初の試みとなる。これらの井戸を通じて、地下での水の流れ、化学反応の速度、水素の生成量などを測定し、商業化に向けたデータを収集する。Levin氏は「掘削した岩石サンプルの品質は予想通りで、水素の生成量も有望だ」と述べた。

ケベック州を選んだ理由は、地下に水素生成に適した岩石が豊富にあるためだ。北米では現在、産業活動の拡大やAI用データセンターの急増により、電力需要が急激に高まっている。カナダは国内で生産できるクリーンエネルギー源を探しており、この技術はその候補の1つとなっている。

Vema Hydrogenは、ケベック州のプロジェクトを、急成長する電子燃料(e-fuel)やクリーンモビリティ産業を支援する基盤と位置づけている。海運や航空輸送市場に低コストでクリーンな燃料を提供することを目指す。また、技術開発と並行して商業化も進めている。2025年12月には、Verne Powerと10年間の水素売買契約を締結し、2028年からカリフォルニア州のデータセンター向けにクリーン水素を供給する予定だ。また、カリフォルニア州の水素公共事業体であるFirst Public Hydrogen Authority(FPH2)から適格サプライヤーとして認定され、同州のクリーンエネルギー移行を支援する立場を確立している。

従来の水素製造方法と比べると、この技術には大きな利点がある。現在主流の方法は天然ガスから水素を取り出すもので、安価だが二酸化炭素を大量に排出する。もう1つの方法は電気で水を分解する電気分解だが、電気代が高く、設備投資も大きい。これに対し、地下の岩石を使う方法は、自然の化学反応を利用するため、コストを抑えつつ安定的に水素を供給できる可能性がある。

ただし、課題も残っている。どの場所の岩石が最も効率よく水素を生成するか、反応速度をどう制御するか、発生した水素をどう効率的に回収するかなど、解決すべき技術的な問題は多い。今回の実証試験は、これらの課題を実際の環境で検証し、商業化の実現可能性を評価するための重要なステップとなる。

Vema Hydrogenは、将来的に大規模な水素供給を目指している。使われていない土地を水素生産地に変えることで、新しい産業を呼び込み、地域経済を活性化させ、北米の脱炭素化を加速させることを目標としている。

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