ドイツの自動車部品大手ZFがEVモータの温度を正確に計測するAIを開発、EVの効率が飛躍的に向上

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画像出典元プレスリリース

ドイツの自動車部品大手ZFが、電気モーター内部の温度をAIで正確に予測する「TempAI」技術を発表した。追加ハードウェア不要で温度制御精度を15%向上させ、EVモーターのピーク出力を最大6%増加、動的走行時のエネルギー消費量を6~18%削減する。同技術は新世代ZF電気モーターで量産準備が完了している。

従来、電気モーター内部、特にローター内部の温度測定は高コストで困難だった。TempAIは測定困難な箇所の温度を、オイルパン温度やローター回転数など既存センサーからのデータを基にAIアルゴリズムで推定する。テストベンチや試験車両での機能テストで蓄積された数百万のデータポイントを活用し、ローターとステーターの温度変化に最も重要な依存関係を特定する。

同システムは物理ベースのモデルを測定データから自動生成するプラットフォームを使用し、非常に短時間で運用可能にする。既存の制御ユニットで動作し、AIモデルは低い計算リソースで済むため、量産において費用効率的な実装が可能だ。

WLTP走行サイクルでも効率向上を実証

より精密な温度予測により、熱動作限界ギリギリまでの制御が可能になった。結果として最大6%のピーク出力向上と、現実的な運転排出量の世界標準であるWLTP サイクルでの検証可能な効率向上を実現している。ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェのような動的走行では、負荷ポイントに応じて6~18%のエネルギー消費削減を達成した。

ZF研究開発部門のAI・デジタルエンジニアリング・検証責任者Stefan Sicklinger博士は「この技術により、我々のドライブシステムの効率と信頼性をさらに向上させることができる。同時に、TempAIはデータ駆動型開発がより高速であるだけでなく、より持続可能でより強力である方法を実証している」とコメントしている。

性能向上に加え、TempAIは環境的・経済的利点も提供する。最適化された熱設計により、重希土類の大幅な削減が可能になった。開発時間も劇的に短縮され、従来の数ヶ月から数日へと大幅に短縮された。

データ駆動開発で時間とコストを大幅削減

電気ドライブ開発において、AIは電気モーター内部のプロセスを理解・記録するために活用される。これらのプロセスには、コストや時間の理由から物理的に信頼できるモデルが存在しない場合が多い。運転中のローター内部温度の直接測定は高コストであることが課題だった。

しかし、広範囲な機能テストやテスト車両で体系的に記録される豊富な測定データが存在する。これには周囲環境からの温度値(オイルパンなど)やローター回転数が含まれる。様々な運転ポイントとその時間的推移により数百万のデータポイントが生成され、これらはドライバーがフルパワーを要求するか低速で走行するかによって変動する。

電動パワートレイン技術開発責任者Otmar Scharrer博士は「我々はこの革新を量産に持ち込むことを誇りに思い、より効率的なeモビリティに大きく貢献している。TempAIは電気ドライブの温度管理における真の技術的ブレークスルーだ」と述べている。

TempAI技術は、EVの普及に伴って重要性が増している希土類材料の使用量削減にも貢献する。正確な温度管理により、従来よりも少ない材料で同等以上の性能を実現でき、サプライチェーンの持続可能性向上にもつながる。

関連情報

ZF Press Release – TempAI技術発表

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FabScene編集長。複数のエンタープライズ業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年にwebメディア「fabcross」の設立に参画。サイト運営と並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者との取材を重ねる。

2017年に独立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、スタートアップ支援事業者の運営に携わる。スタートアップや製造業を中心とした取材実績多数。