簡単操作&大容量のフィラメントドライヤー「FilaPartner E1 Filament Dryer 」レビュー

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FFF方式の3Dプリンターに欠かせない素材、フィラメント。色のバリエーションはもちろん、硬質なものから柔軟性のあるもの、さらには木材や石材のような風合いを再現できるものまで、多彩な種類が揃っている。

創作の幅を大きく広げてくれる一方で、保管には注意も必要だ。フィラメントは湿気や熱の影響を受けやすく、材質が変化してプリント品質に悪影響を及ぼしてしまうことがある。きれいに保ち、安定した出力を得るために、ユーザーはさまざまな工夫を凝らしてきた。

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メーカーの販売サイトより引用

近年、3Dプリンターメーカーや周辺機器メーカーから「フィラメントドライヤー」と呼ばれる乾燥機が登場し、注目を集めている。その性能や使い勝手を確かめるべく、筆者にとって初めてのフィラメントドライヤーを試すことにした。レビュー対象は、中国の3Dプリント関連機器メーカー・Chitu Systemsが手がける「FilaPartner E1 Filament Dryer(以下FilaPartner E1)」だ。本記事では同社からレビュー用の機器の提供を受けたうえで、使用感や気になるポイントを紹介する。

大容量かつ省スペースを配慮したデザイン

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「FilaPartner E1」は2025年2月ごろに発売された製品で、日本国内からもオンラインで購入可能だ。2025年9月時点のAmazon価格は税込2万3499円となっている。

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まず目を引くのは、最大4リールを収納できる大容量設計だ。1リール専用の機材も多い中、FilaPartner E1は最大4リールを同時に保管・乾燥できる。また、他の4リール対応機種は「ひと箱まとめて」の構造をとるのが一般的だが、本製品は2リールずつ独立したチャンバーを備えている点がユニークだ。

この2つのチャンバーは、タッチパネルや加熱・送風機構を内蔵した制御部から分離可能で、独立した保管ケースとしても利用できる。さらに、丸型チャンバーが主流の中で、本製品は四角いフラットデザインを採用。スタッキングや省スペースでの設置に適しており、扱いやすさと収納性を両立した設計になっている。

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チャンバーを開けると、スリットの奥に乾燥用のシリカゲルがセットされており、そこに制御部から温風が流れ込む仕組みになっている。写真右にある金属板はマグネットで固定されており、ドライヤーとして使わないときは、この金属板を開口部に移動させて塞ぐことで、ストレージとしての密閉性を高められる。

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フィラメントを支えるローラー(コロ)はシンプルな構造で、よほど特殊な規格でなければ問題なく使用できる。筆者はGratKit、Polymaker、Prusament、Bambu Labの1kgスプールを試したところ、いずれもスムーズに設置できた。

数回のタッチ操作で乾燥が完了

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それでは、実際に乾燥機能を試してみよう。まず制御部をコンセントに接続して電源を入れると、タッチディスプレイが起動する。初期設定は華氏(F°)表示になっているため、左下のメニューから摂氏(℃)に切り替えておくと使いやすい。

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次に、乾燥用の温度と時間を設定する。主な素材についてはあらかじめプリセットが登録されており、メイン画面から呼び出すことができる。「PLA/PETG 45℃ 4h」「ABS/TPU/ASA 50℃ 4h」「PA/PC/HIPS 60℃ 4h」から素材を選んで「Apply」を押すと、メイン画面にその設定が反映される。

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準備が整ったら、フィラメントを入れたチャンバーを配置し、メイン画面から実行ボタンを押す。すると加熱と送風が始まり、あとは設定時間が経過するまで待つだけだ。なお、チャンバーは1つだけでも動作する。指定された時間になると送風は自動的に停止し、フィラメントを取り出してそのまま3Dプリントに利用できる。

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左が乾燥前 右が乾燥後のフィラメントを用いて印刷したもの

今回は手元にあったPLAフィラメントを用いて比較を行った。6か月ほど吸湿剤のない箱に放置していたものと、それを「FilaPartner E1」のプリセット設定(45℃・4時間)で乾燥させたもので、同じモデルを印刷してみた。

結果としては、造形物に目に見える大きな違いは確認できなかった。その後、同条件で再度テストを行ったが、やはり明確な差は感じられない。これは、PLA自体が比較的吸湿しにくい特性を持つこと、さらに今回のフィラメントが過度に湿気を含んでいなかったことが影響していると考えられる。

とはいえ、糸引きや折れといった印刷時のトラブルを解決するには、フィラメントの状態が均一であることが大前提だ。変数の多い3Dプリント造形において、少なくともフィラメントが「同じ条件で乾燥をかけた」状態からスタートできる安心感は大きい。問題の原因を切り分けやすくなる装置として、造形品質の安定化につながる価値を実感できた。

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製品紹介動画から引用

なお、メーカーの公式動画では、乾燥によって糸引きが軽減される様子が紹介されている。吸湿性の低いフィラメントであれば、よほど雑に管理しない限りここまでの差は出ないだろう。しかし、PET-Gなど吸湿の影響を受けやすい素材であれば、よりはっきりと効果を体感できるはずだ。

ヘビーユースを見込んだ工夫の数々

ここからは、プリセット以外で活用できる機能を紹介していこう。

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まず注目したいのは、ユーザー自身で温度と時間をテンプレートとして設定できる点だ。チャンバーごとに最大4種類の組み合わせを登録できるため、都合8種類までワンタッチで呼び出せる。

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また、チャンバーにはフィラメント用のスルーホールが設けられており、付属するチューブと合わせて外部へ直接フィードできる。乾燥をかけながらの供給も可能で、利用する機材によっては安定したフィラメント置き場としても機能するだろう。

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制御部とチャンバーを分離して使える設計は、保管時にも大きなメリットがある。気づけば増えてしまうフィラメントを、種類別に仕分けながら、すぐに乾燥にもかけられる状態で保存する。そんな、ヘビーユーザー向けのストレージとしての利用も十分に想定できるだろう。

制御部とチャンバーは基本的にセット販売だが、もしチャンバーだけを追加購入できれば、さらに使い勝手は広がりそうだ。用途に応じて収納力を拡張できれば、ヘビーユーザーにとって大きな魅力になるはず。残念ながら記事執筆時点(2025年9月)で公式サイトでは売り切れで、Amazonでも取り扱いがない状態だった。今後、この条件が整うことを期待したい。

まとめ

フィラメントドライヤーは、おそらく毎回の試作で使うというよりも、性能が固まったモデルを量産するときにこそ力を発揮するツールだろう。3Dプリンターの性能が向上する今、素材の品質管理は造形物のクオリティを、さらに一歩押し上げるための重要な要素になっている。MakerChipや個人生産販売のプロダクトなど、造形物のクオリティを追求するユーザーにおすすめしたいプロダクトだ。

とりわけ「FilaPartner E1 Filament Dryer」は、他の製品と比べて乾燥以外の使い勝手にも配慮されている点が印象的だった。取り外しやすくスタッキング可能なケースや、圧迫感のないデザイン。2つのチャンバーを独立して同時に乾燥できる点も、複数素材を並行して扱うユーザーにとって便利に感じられた。

今回の検証ではPLA素材に大きな変化は見られなかったが、吸湿性の高いフィラメントを使い込む際には効果を実感できる可能性が高い。ストレージとしても活用できる設計なので、制作環境への導入で損することはないだろう。

今回のレビューを通じて、フィラメントを一定の状態に保つことが、不確定要素を減らし、造形時の条件出しをスムーズにしてくれることを実感できた。フィラメントドライヤーは、便利な周辺機器であると同時に、試行錯誤の前提を整えるための装置ともいえる。3Dプリントに高い品質を求めるユーザーにとって、導入を検討するに値する機材と言えるだろう。

取材協力:Chitu Systems

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