
3Dプリンター愛好家向けのイベント「Japan RepRap Festival 2025 ~3Dプリンターでつながる世界~(以下、JRRF)」が、2025年6月14日と15日の2日間、東京都大田区の東京流通センター展示ホールCにて開催された。
本イベントは、オープンソース3Dプリンター「RepRap」にルーツを持つ「RepRap Festival」を日本で初めて開催したもので、自作プリンターや改造機の展示にとどまらず、スライサーや制御基板、素材や作品の頒布まで幅広いジャンルが集結。個人・教育機関による出展は59ブース、協賛企業による出展が44ブースと、合計103ブースの展示やライトニングトークなどが行われた。
2日間の来場者数は1500人を突破し、熱気と創造性にあふれたイベントとなったJRRF。会場の様子をレポートしよう。
盛り上がりと個性の象徴「MakerChip」

会場の入り口でまず目を引いたのは、出展者や来場者が持ち寄った「MakerChip(メイカーチップ)」の展示パネルだ。MakerChipとは、3Dプリンターで制作される直径約40mmのチップで、オリジナル制作者のK2 Kelvin氏が仕様やテンプレートを公開しているもの。これをベースに、多くの作り手が独自にアレンジを加え、イベントでは名刺代わりに交換するカルチャーが生まれている。

筆者も自宅の3DプリンターでMakerChipを制作し、取材を通して多くの方と交換した。事前に公開されているモデルを活用すれば制作ハードルは低く、印刷設定や多色化の工夫、量産のためのテクニックなど、3Dプリントの総合力が試される“ちょうどいい題材”でもあると感じられた。

多くのMakerChipには、SNSやショップページへのリンクQRコードが埋め込まれており、なかにはNFCタグやLED、可動パーツを仕込んだギミック満載のものもある。光る・回る・動くといった自由度の高い表現は、眺めるだけでも十分に楽しめる。名札であり、作品でもあるMakerChipが次々と交換される光景は、まさに作り手たちの祭典・JRRFを象徴する風景だった。
10年前から未来のスタンダードまで、個性豊かな3Dプリンターたち
B13 – 多軸3Dプリンタ

ここからはJRRFの会場から、筆者が気になった展示を紹介していこう。まずは自作3Dプリンターがずらりと並ぶなかでも、ひときわ異彩を放っていた「MAGE Printer」。通常のXYZ軸(縦・横・高さ)に加え、プリントベッドの傾斜と水平回転を合わせた5自由度の『CoreXY-BC方式』(高速かつ高精度な印刷を可能にする駆動方式)による3Dプリンターだ。
すでに産業用の金属プリンターなどでは採用されている方式だが、機構の複雑性と自由度の高さゆえにハードルが高く、ミドルレンジの機種では広まっていなかった。サポート材(3Dプリント時にオーバーハング部分を支える補助材料)の最適化や異素材の効果的な組み合わせなど、5自由度ならではの研究開発を後押しするため、安価で扱いやすい装置と、それに対応したスライサーを開発しているという。今後のスタンダードになるかもしれない、可能性に満ちた作品だ。
B12 – ジャンクな光造形3DP修理したよ!+VORON 0.2組み立ててみたよ!

こちらはVORON 0.2とジャンクな光造形3Dプリンターを修理・魔改造した2機。いずれも譲渡品だが、特にVORON 0.2はJRRFへの出展を条件に譲ってもらったため、なんとか間に合わせたという努力の結晶だ。また、光造形機をDIYで修理する事例はあまり聞かないが、レジンバット以外は自力で対応できたという。譲り受け、直して使い続けることもまた、RepRap的精神なのかもしれない。
G8 – 10年前に買ったKossel K800をいまだ改造し続けた結果

10年前に購入したデルタ型3Dプリンター※「Kossel K800」を改造し続けてきた出展者が、その成果を展示。フレーム以外はほとんど別物という、3Dプリント版「テセウスの船」とも言える哲学の香る作品だ。この10年間で変化してきた3Dプリンター用パーツや、新素材に対応する押出機構などを柔軟に取り入れてきた。すでに時代遅れと見なされがちなデルタ型だが、その構造美や可能性に惹かれ、粘り強く手を加え続ける作者は、3Dプリント文化を伝える生き証人と呼べるかもしれない。
※3本のアームで印刷ヘッドを制御する円筒形の3Dプリンター
H2 – Fraxinus Pj


コンパクトかつ高速な加工機「Fraxinus」は、エンクロージャ(筐体で覆われた密閉型)版、トライデント版、ガントリー型、マイクロサイズなど、多彩な派生モデルが存在し、その豊富さが大きな魅力となっている。ブースでは3Dプリンターやプロッターなど、堅牢でありながら省スペース性にも優れた装置が数多く展示されていた。
ソフトウェア・ハードウェアの両面に手を加えやすい設計も特徴で、開発者たちはDiscordを通じてノウハウを活発に共有しているという。こうしたコミュニティと可搬性を活かし、Fraxinusは「スリキャン」と呼ばれるキャンプ×3Dプリンティングの屋外イベントでも活躍。Xで「#スリキャン」と検索すれば、自然の中で躍動するFraxinusたちの姿を見ることができる。
G9 – Ceramic 3DP

Enderシリーズをベースに改造したマシンによって作られた、3Dプリントによる陶芸作品たち。積層痕や質感を味として活かすため、モデルの制作や後処理にもこだわっている。また、市販パーツに頼りきることなく、素材を供給するチューブの増設や洗いやすさを意識した構造など、自作のノズルにも工夫が詰め込まれている。
多彩で精細、ハイクオリティな3Dプリントプロダクト
E12 – ファブラボ品川 COCRE HUB:3Dプリンタ×支援技術の分散型プラットフォーム

ファブラボ品川が運営する「COCRE HUB」は、障がい当事者や作業療法士と連携し、250点を超える支援機器の3Dデータをオープンに共有するプラットフォームだ。JRRFの展示では、TPU素材を活用した柔軟性のある自助具や、既製スプーンをそのまま利用できるアダプターなどが並び、具体的な利用シーンを想起させる実用性の高いラインナップとなっていた。
また、京都を拠点とする新工芸舎とのコラボレーションでは、既存データを基に改良したアイテムや、これまでの活動で要望の多かったボタン入力用の専用基板なども登場。支援を必要とする人々の声に応えるかたちで、技術と発想が融合した作品群は、3Dプリンターの可能性の具現化と言えるだろう。
G4 – からくりすと

歯車をはじめとした機構の数々で、いつまでも見ていられるからくり作品を展示する「からくりすと」。常にブース前には足を止める来場者の姿があり、精巧な動きとユニークな仕掛けに見入る様子が印象的だった。近年の3Dプリントの精度向上と多色プリントの使いやすさは、より細かく、より美しい作品制作にも生かされているという。
E2 – 3Dプリンタソフトウェア G-coordinator / Strecs3D の展示(慶應義塾大学大学院)

慶應義塾大学大学院の出展からは、G-code生成ツール「G-coordinator」とその制作例をご紹介。G-coordinatorはPythonベースで動作し、一般的なスライサーを介さずに、G-codeを直接記述・制御できるソフトウェア。「数式を実体化し、手に取れる形にしたい」という動機から開発されたという。
展示されていたオブジェクトはどれも複雑かつ魅力的で、数式やアルゴリズムによる制御ならではの価値に溢れている。さらに、一部の作品はJRRFに訪れたG-coordinatorユーザーから譲り受けたものだそうで、ソフトウェアをオープンソースにしたことで生まれる出会いや創造性に喜びを滲ませていた。
D6 – 麦茶の逸般人工作室

工作動画を投稿するYouTuber「麦茶の逸般人工作室」のブースでは、3Dプリンターで制作したプロダクトやその制作過程を公開。カラフルなフィラメントや多色刷りの表現が生かされた作品たちは、思わず手に取りたくなるものばかり。デザイン系やクラフト系のイベントでも人気の出展者だが、3Dプリントに特化したJRRFでも多くの来場者が足を止め、その表現力とアイデアを楽しんでいた。
ソフトウェアから部品まで、熱量に満ちた企業ブース
D2 – HueForge

HueForgeは、フィラメントの積層で多色表現を実現する「フィラメントペインティング」技術を核に開発されたソフトウェア。層ごとの光の透過率を計算し、厚み・色・積層順を最適化することで、2D画像を写真品質で再現する。
ブースにはプリントサンプルが並び、まるでインクジェットのようなグラデーションが来場者の目を引いていた。国内ユーザー向けに日本語対応パッチのリリースも予定されており、色彩にこだわる3Dプリント表現として注目される存在だ。多色プリントが一般化した今だからこそ、手に取りたいと思うユーザーも増えていくだろう。
C4 – BIQU

深セン発のBIQUはデスクトップ向け3Dプリンターを中心に、Makerに人気の3DプリンターメーカーBambu Lab製品と互換のあるパーツ、押し出し機、独自設計のマザーボードなどを手がけるメーカーだ。BIGTREETECHブランドで展開される制御基板やドライバーボードは、VORONシリーズやCoreXY機に対応し、国内外で高い評価を受けている。特にBambu Labの周辺アイテムには高い注目が集まっており、完全DIYとはまた毛色の異なる、新たなエコシステムが生まれていることを感じられた。
C1 – LDO x Sugoi3D

Sugoi3Dは、Kinesiが運営する日本拠点の3Dプリンター専門オンラインショップ。LDO Voronキットの正規代理店として、高品質なパーツやプリント済み部品、ツール類を常備在庫・即日発送で提供している。試作品やカスタムパーツの造形受託、3D設計サービスも行っており、ブースではプリンターのキットやパーツ、制御基板まで幅広く展示されていた。
JRRFに参加していた企業ブースからは、技術的な実験精神やユーザーと楽しむ距離の近さが感じられた。3Dプリンターという領域に絞ったイベントだからこそ可能な、使い手の課題や興味を真正面から捉えた姿勢が、この親密さと熱量をもたらしていたはずだ。
まとめ
JRRFには、およそ20名の有志スタッフが運営に携わっていたという。主催である「Japan RepRap Festival 2025 運営事務局」を率いる堀内雄登氏は、会社勤めのかたわら、約3ヶ月という短期間でこのイベントを立ち上げた立役者だ。会期中はステージ登壇、海外メーカーとの調整、そして来場者とのMakerChip交換まで、八面六臂の活躍ぶりで会場を盛り上げていた。

来場者には親子連れや学生の姿も多く見られ、年齢を問わずにMakerChipを交換したり、展示作品について語り合ったりする光景が広がっていた。3Dプリント文化が次の世代へ、しっかりと受け継がれていることを実感する場面だった。
JRRFは来年の開催も予定されているという。日本の3Dプリント文化が詰まった、あの熱気と楽しさを、また味わえることを期待したい。