ショウジョウバエが方向を覚え、目印を頼りに飛び、壁にぶつかれば学び、影が迫れば逃げる。その脳の仕組みを模した回路が、160MHzのマイコン1個で動いている。「Drosophila Connectome CX Flight Simulator」としてGitHubにMITライセンスで公開されており、作ったのはCircuitGhost氏で、週末をまるごと費やしてどこまでハエをマイコンに入れられるか試したと投稿している。
土台になっているのは、ハエの脳のうち「中心複合体」と呼ばれる部分の研究だ。方向感覚と目標へ向かう行動を担う領域で、近年はGoogle ResearchやJanelia Research Campus、FlyWireが神経の接続を丸ごと図にした「コネクトーム」を公開している。同氏はそのうち、いくつかの計算上の考え方だけを取り出し、小さな離散構造に落とし込んだ。神経細胞を1つずつ再現したものではないと本人が明記している。
方位は16区画の環で表す。環の上に活動の「山」が1つできて、それが今向いている方向を示す。ハエが向きを変えると山が左右にずれる。視野も16方位に分けてあり、通路の壁の模様を見ると、その模様と方位が結び付いて記憶される。目印を見れば自分の向きが分かる、という仕組みだ。
目標の方向は別の領域が持っていて、今の向きとの差から左右どちらに舵を切るかを決める。学習はドーパミンを模した信号で進む。壁にぶつかると罰の信号が出て進行方向が壁から離れ、通路の中央を飛ぶと報酬の信号が出て安定した飛行が強化される。
逃避反射も入っている。上から影が迫ると、ハエの脳にある巨大線維と呼ばれる回路が働いて回避する。回避の俊敏さは学習度に応じて変わり、学習度が30%未満の「未熟なハエ」は反応が鈍く、影から逃げ切れずに食われて学習度が0%に戻る。60%を超えた「訓練されたハエ」は即座に開けた方へ急旋回する。
画面は172×320の液晶を上下に分け、上に通路を上から見た光景と飛ぶハエ、下に神経回路の状態を映す。外側の環が16の視覚ノード、内側の環が16の方位ノードで、目標ベクトルと現在の学習度も表示される。基板のBOOTボタンを押すと電撃の罰を与えられ、長押しすると捕食者を呼び出して回避を試せる。
使っているのはESP32-C6と、Waveshareの1.47インチ液晶だけである。