Categories: 特集

累計販売4万台以上の製品開発者が語る量産の道――0/1 Club第1回イベントレポート

ビット・トレード・ワン、きびだんご、FabSceneの3社が共同で立ち上げた「0/1 Club」の第1回イベントが、2026年4月22日に開催された。

会場には第0回に続き多くのMakerやものづくりに関心を持つ人々が集まり、累計4万台以上を売り上げたUSBケーブルチェッカー開発者あろえ氏による基調講演と、4名のMakerによるピッチが繰り広げられた。

3社が掲げる「個人のひらめきを世界に届ける」ビジョン

冒頭では、きびだんごの青井一暁氏が登壇し、3社協業の枠組みを改めて紹介した。ビット・トレード・ワンが製造・販売・サポートを、きびだんごがクラウドファンディングを、FabSceneが情報発信を担い、個人Makerが作った尖ったアイデアをそのまま世界に届けることを目指す。

「大企業の合議のなかでは角が取れて丸くなってしまいがちですが、個人の発想からしか生まれないユニークなものを、そのままの形で世の中に届けたい」と青井氏は語った。第0回を「まだ手探りの段階」として開催した経緯を振り返りつつ、今回の第1回からは正式な連番として積み重ねていく方針を示した。

基調講演:あろえ氏――累計4万台超の先に見える量産のリアル

基調講演に登壇したのは、USBケーブルチェッカーシリーズの開発者として知られるあろえ氏だ。これまでFabSceneのインタビュー記事でも取り上げてきたが、今回は大学中退後のフリーター時代から現在に至るまでの歩みと、販売実績を包み隠さず語った。

2016年に個人ネットショップでのメーカー活動を始めたあろえ氏が最初に手がけたのは、AndroidスマートフォンとUSBで接続するオシロスコープだった。2年近い開発期間を経て2017年に販売開始したが、マイコン単価だけで1000円を超える原価の高さと、部品点数の多さによる実装工数の負担が重くのしかかった。

「一番の反省点は、売れるものではなく自分が作りたいものを作ってしまったことです」。振り返るあろえ氏は、この経験から「もっと安く、もっと簡単に作れて、もっと売れそうなもの」への方針転換を決めた。そこから生まれたのが2017年の初代USBケーブルチェッカーだ。当時まだ普及期に入りかけていたUSB Type-Cの仕様書を読み、見た目では判別できないUSB 2.0と3.0対応ケーブルが混在する状況を「絶対に問題になる」と直感したのがきっかけだった。

現行モデル「USB CABLE CHECKER 3」は、2019年末の前作「USB CABLE CHECKER 2」発売直後から開発を始めたが、USB Power Deliveryのプロトコル実装に苦戦して3年9か月の開発中断期間を挟んだ。2023年12月に開発を再開し、2025年中に発売にこぎつけている。NotebookLMやコード生成AIの登場が、1000ページを超えるUSB PD仕様書の解読を後押ししたという。

あろえ氏のプレゼンで会場をざわつかせたのは、年ごとの販売実績グラフだった。2019年10月発売の初年度は1000台前後の規模でスタートし、その後も年を追うごとに積み上げてきたが、変化が顕著になったのは2023年9月にiPhoneがUSB Type-C対応になったタイミングだ。2024年度は9400台超と前年の倍以上に伸び、2025年度はUSB CABLE CHECKER 2とCHECKER 3を合わせて年間1万台を大きく超える規模に達している。

累計のロイヤリティ収入は通算で2000万円を超える水準に達したといい、あろえ氏個人への還元は本業に匹敵する規模だ。会場からは「アクリルサンド構造から金型による射出成形筐体への移行は、結果的によかったか」との質問があり、あろえ氏は「製品感が強くなり、売上が伸びた要因の1つだと考えている」と答えた。クラウドファンディングも、金型代の資金調達という具体的な目的から踏み出した判断だったという。

https://fabscene.com/new/interview/usb-cable-checker-aroe-interview-success-story/

鴨居達明氏――お祭りの工作屋から200個のセンサーで音速を見る装置まで

続いて登壇したのは、ブログ「工作記録帳」で作品を発信するメカエンジニアの鴨居達明氏。昨年のFabScene読者投稿で最優秀賞を受賞したMakerだ。今回は「小規模量産」という観点から、2つの作品を紹介した。

1つ目は、地元のお祭りで子ども向けに販売した「歩くロボット」の工作キット。小学校低学年が10分以内に組み立てられる構造と、子どものお小遣いで買える500円前後の価格を両立させるため、細部まで工夫を重ねた。TTモーター(ギヤ比1:48)は8個入りで購入して1個あたり150円まで下げ、電池ボックスは秋月電子の金具とスイッチを使って自作基板(JLCPCB製造)に組み付けることで130円に抑えた。その場で組み立てて子どもたちに持ち帰ってもらう形で販売したところ、お祭り開始前から長蛇の列ができ、30分で全20セットが売り切れた。

その後、Maker Faire Tokyoでの試験販売に向けて3Dプリンタ部品をプラモデルのランナー状に一体出力した改良版を制作、これにより各部品のカウントミスを防ぎネジもはめ込み用の溝を用意する徹底ぶり。

現在は税込1500円でBOOTHでも販売中だ。「タミヤのキットが定価1400円、量販店では1200円で販売されている現実もあり、個人での販売はそうそう勝てない。それでも場を楽しませる製品として継続していきたい」と鴨居氏は語る。

もう1つの作品が、体育館で披露された「音を見る装置」だ。マイクとLEDを組み合わせた小型センサーを200個製作し、縦20個、横10個のマトリクス状に床へ並べる。体育館の中心で手を叩くと、音速(秒速約340m)で円状に光が広がっていく様子が目視できる。

この作品では、JLCPCBの標準部品を使うことでコストを下げる工夫を徹底し、関税が発生しない程度の数量で試作を繰り返した後に150枚の一括発注で固定費を分散させるなど、個人規模での基板量産のノウハウが詰まっている。最終的に200個を約5万2000円、1個あたり260円で製造した。現在は24~200個セットを理科教材として販売しているが、「BOOTHでの販売チャネルと、学校の購買ルートのミスマッチが課題」と鴨居氏は指摘した。

埋田祐希氏――290円のマイコンボードが掲げるオープンソースマニュファクチャリング

3番目に登壇したのは、290円のArduino互換マイコンボード「UIAPduino」の開発者、埋田祐希氏だ。

埋田氏のプレゼンは、UIAPduinoの紹介から製造・供給の実態、さらにプロジェクトマネジメントの思想まで多岐にわたった。UIAPduinoは教育機関とクリエイターをターゲットにした設計で、USBの電源ラインと信号ラインのすべてにヒューズを搭載している。実験中に誤配線をしてもホスト側のPCが壊れない設計だ。ある大学では、市販のArduinoを使った授業用教材の予算が、このボードへの置き換えで大幅にコストダウンできたという事例も紹介された。

直近の動向として、3月中旬頃から手持ち在庫がゼロとなり、供給が需要に追いつかない状態が続いている。埋田氏は現行機種の供給を継続しつつ、上位チップのCH32V006を搭載した新ボードの開発も進めており、会場では評価用の個体が披露された。

埋田氏は質疑応答で、さまざまなプロジェクトに対するコンサルティングを無料で受けている理由について「UIAPduino販売だけでも月に100万円から200万円ほど利益が出ており、コンサル業は単純に知的好奇心の満足のため」と率直に答えた。「どこでも買える状態」を成功の唯一の定義と置き、特定の企業が名前を独占するライセンス形態を採らずに、あえてクローンが生まれることを歓迎するオープンソースの姿勢を貫く。製造委託先や販売チャネルも分散させ、SCMのリスク管理を徹底する姿勢が印象的だった。

https://fabscene.com/new/interview/uiapduino-290yen-mass-production-interview/

小林竜太氏――家電の電源を「切る」洒落作品「リモチョキ」

4番目の登壇者は、自動車メーカーでロボット開発に携わる工作ライターの小林竜太氏。FabSceneにも寄稿するMakerだ。

小林氏が披露したのは、ハサミの切る動作で赤外線を発信し、家電の電源を操作する「リモチョキ」。ハサミで物理的に物を切る動作と、電源を切る動作をかけたガジェットだ。初代は2022年にM5 ATOM LiteとIR UNITの構成で試作し、その後自作基板化と小型化を進めてきた。現行版は小型のコイン電池CR2032で駆動し、1日1回の操作であれば約4か月稼働する設計だ。

樹脂刃を使うことで安全性を担保し、ユーザーインターフェースとしては送受信のタイミングでLEDが光る仕掛けも組み込んでいる。想定価格は3000円から5000円程度で、子ども向けのおもちゃや展示用ツールとしての販路を視野に入れているという。

浜田紗綾子氏――「Scratch Act」プロトタイプの進捗と量産の壁

最後に登壇したのは、山梨県でICT教育に携わる浜田紗綾子氏。第0回に続きScratchで作ったゲームを動かす専用ゲーム機「Scratch Act」の進捗を報告した。

前回はバラバラだった液晶、コントローラー、本体を一体化したプロトタイプが完成し、バッテリー駆動で動作する段階に入った。前回のタクトスイッチで感じた操作感の硬さを解消するため、メンブレンシートを採用した方向キーへの変更も進めている。任天堂の特許に抵触しないボタン形状の模索も継続中だ。

![Scratch Actのプロトタイプ。5インチ液晶と十字キーを一体化した筐体を完成させた]

大きな進展として、Scratch財団とアライアンス締結の交渉に入ったという報告もあった。正式書面の取り交わしはこれからだが、商品名への「Scratch」使用やロゴ展開の方向性が見えてきている。

一方で、量産には大きな壁が立ちはだかっている。テスト基板として使っていたメインボードは、購入時4000円以下だったものが現在は2万円以上に高騰しており、商社に問い合わせたところメモリ部品の価格上昇が原因と説明された。当初想定していた原価での量産は難しく、浜田氏は「量産初期はプレミアム感を付与してクラウドファンディングを立ち上げ、メモリ価格が落ち着いたタイミングで本格量産に入る」という2段階構想を検討中だ。

イベントの最後には、きびだんごの新機能「プロジェクトの種」を使った予告編ページが公開された。会場の参加者がその場でフォローボタンを押す様子は、作り手と支援者の距離がなくなるクラウドファンディングの原点を象徴する一幕となった。

次回は2026年7月に開催予定

クロージングでは3社それぞれから所感が語られた。きびだんごの松崎良太氏は「作り手と支援者が仲間になって盛り上がる場を今後も作り続けたい」と語り、ビット・トレード・ワンの阿部行成氏は「クラウドファンディング前の壁打ち相談から製造までフェーズを問わずサポートする」と述べた。FabSceneの越智岳人は「ハードウェア開発の伴走を通じて、ものづくりのカルチャーごと育てていきたい」と結んだ。

イベント終了後は交流会が設けられ、あろえ氏の最新ボードから鴨居氏の音速可視化装置まで、各Makerのプロトタイプを参加者が自由に触れる時間となった。次回は2026年7月〜8月頃の開催を予定している。

※0/1 Clubでは自分の「作品」を「製品」として世に出したいMakerを随時募集しています。興味のある方は0/1 Clubの公式サイトからご連絡ください。

FabScene編集部

FabScene編集部