生体組織は柔らかく、電子機器は硬い。この根本的な違いが、体に密着するウェアラブルや生体適合デバイスの設計を難しくしてきた。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが2026年4月16日、光を当てるだけで導電率を最大400倍に変えられる軟質・伸縮性ゲルの開発を発表した。論文はNature Communicationsにオープンアクセスで掲載されている。
このゲルが属する「イオントロニクス」は、電子ではなくイオン(帯電した分子)でデータを伝達する分野だ。人体の細胞もカリウムや、ナトリウムなどのイオンで信号を伝えており、イオントロニクスは電子回路と生体組織をつなぐ橋渡しになる可能性がある。従来のイオントロニクス材料は高い導電率を持つものの、その値を制御する手段がなかった。
研究チームが鍵として使ったのは「光イオン発生剤(PIG:photo-ion generator)」と呼ばれる材料で、光を当てると最大1000倍導電率が上昇する。PIGの粉末を溶媒に溶かしたうえでポリウレタンゴムに膨潤法で取り込む手法を開発し、光を当てた部位だけ選択的に導電性を持たせることに成功した。デモでは、長方形のゲルバー上の3か所のステーションのうち、光を当てた2か所の電球だけが点灯し、光の当たっていない1か所は絶縁状態のまま動作を確認している。
現状では導電率の変化は不可逆だが、論文の第一著者でキングス・カレッジ・ロンドン助教に就任予定のXu Liu氏は、可逆的なオンオフ切り替えが将来的に可能になると見ている。また今回はPIG・ポリマー・溶媒の各1種類のみを使った試作だが、それぞれに多くの選択肢があり改善の余地が大きいという。光以外にも熱や磁場など他の環境刺激への応答材料も視野に入れており、「ソフトウェアラブル・ヒューマンマシンインターフェース・ロボティクス・生体医療などへの応用が広がる」としている。
この材料が実用化されれば、汗や動きに追従しながら光で回路を書き換えられる次世代ウェアラブルや、外部刺激で動きを変えるソフトロボットのアクチュエーター制御に使える可能性がある。