野球ボールほどの小さな変形ロボットが、月面でどこまで働けたのか。その詳しい結果をまとめた論文が、2026年6月10日付で学術誌Science Roboticsに掲載された。主役は、JAXAなどが開発した月面探査ロボット「SORA-Q」だ。球体から左右に開いて車輪を出し、二輪のローバーへと姿を変える。仕組みのもとになったのは、玩具メーカーのタカラトミーが培ってきた変形玩具の技術だ。
SORA-Qは、JAXAとタカラトミー、ソニーグループ、同志社大学の4者が共同で作った。直径80mm、重さ250gと手のひらに収まる大きさで、2台のカメラを積む。月面では、車輪の中心をずらして回す独特の動きで進み、「バタフライ」と「クロール」と名づけた2つの進み方を使い分ける。カエルやウミガメの動きから着想したものだ。
月面での実働は、2024年1月にさかのぼる。SORA-Qは1月20日、もう1台の小型ロボLEV-1とともに、着陸直前の探査機SLIMから月面へ放り出された。ところがSLIMはエンジンの不調で前のめりに倒れ、太陽光パネルが想定と逆を向いてしまう。地上からの操作を受けずに自力で動いたSORA-Qは、倒れたSLIMの姿を撮影し、状態の把握を助けた。撮った12枚の画像は、LEV-1を中継して地球へ送られた。
今回の論文は、こうした成果に加え、これまで詳しく語られてこなかった課題も率直に記している。稼働できたのは約100分で、想定よりも20〜30分短かった。状態を知らせる信号は32秒に1回しか送れず、動きの細かな変化を追いきれない場面もあった。LEV-1との通信も時折途切れた。研究チームは、次の小型ロボではもっとこまめに状態を記録し、通信を強くする必要があると振り返っている。
大きな探査機が入れない狭い場所へ、小さな自律ロボットが代わりに踏み込む。研究チームは、そんな可能性を示したとしている。身近な玩具で磨かれた技術が、宇宙という極限の現場で形になった。小さな機械にどれだけの働きを詰め込めるか。ものづくりの裾野が、地球の外まで広がりつつある。