米メイン大学の大学院生Quazeem Tiamiyu氏が、クーラーボックスの断熱材をポリウレタンから木材由来の発泡材に置き換える研究を進めている。断熱性能は既存のポリウレタン発泡材とほぼ同等で、原料には製材所から出る副産物を使う。同大学が2026年7月に発表した。
飲料用のクーラーボックスの中身は、外側の樹脂の殻と、その内側に詰めたポリウレタン発泡材でできている。この断熱材は石油由来で分解が遅く、埋め立て地や水域の汚染につながる。加えて、加工前の原料には健康上の問題がある。Tiamiyu氏は「ポリウレタン発泡材の原料となる化学物質は毒性が高く発がん性がある。扱う作業者には呼吸器疾患や皮膚の炎症が報告されている」と述べる。
開発した発泡材は、セルロースナノファイバー(CNF)、木質繊維、細かく挽いた木粉、そして泡立ちをよくする界面活性剤を混ぜたものだ。CNFは木材パルプを分解して作る極細の繊維で、髪の毛よりはるかに細い。これが接着剤と安定剤の両方の役目を果たし、木質繊維と木粉を網目状につなぎとめる。
製法は身近な道具に近い。材料をミキサーで混ぜて泡立て、実際のクーラーボックスの内部形状に似せた型に流し込む。型から水を抜き、乾燥させたうえで保護用の樹脂の殻に収める。断熱性能を測ったところ、ポリウレタンとほぼ同じ数値が出たという。同氏は「熱伝導率は近い。ポリウレタン発泡材と競争できることが分かった」と話す。
課題も残っている。1つは機械的な強度で、押しつぶされたり傷ついたりすると断熱性能が落ちる。もう1つは製造工程だ。既存のクーラーボックスは、液体のポリウレタンを殻の中に注入すればその場で固まるため量産しやすい。一方この発泡材は、水を使う工程で作り、乾燥させてから殻に収める必要があり、手間がかかる。氷がどれだけ長持ちするかの比較試験も、これから実施する予定だという。
将来の目標として同氏が挙げるのが、完成した発泡材を水に分散させて再び成形する手法だ。CNFはいったん加工するとナノ規模の性質を失いやすいが、これが可能になれば、発泡材の状態で出荷し、メーカー側が水に入れて好きな形に成形できるようになる。
CNFの供給面では大学の設備が支えになっている。同大学のProcess Development Centerは、パイロット規模で1日あたり最大4トンのCNFを連続生産できる、米国唯一の施設だ。Tiamiyu氏はナイジェリアのミンナ連邦工科大学で学士号を取得後、再生可能ナノ材料が専門のMehdi Tajvidi教授の研究室に加わった。研究は、メイン州の製材所から出る副産物を使って、石油由来の断熱材に代わる素材を作れることを示している。